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終着駅50 妖精のような手触りで触れて


 第50章

 有紀がベッドに横たわっていた。普段の彼女からは想像のつかない硬い表情は、見ている私までドキドキさせられる緊張が伝わった。さり気ない顔を装っているけど、圭もかなり緊張しているようだ。

 私も全裸になっていたが、バスローブをつけているので、ベッドで繰り広げられる饗宴に、参加するかどうかは、成り行き次第だと、二人には宣言していた。ただ、全裸を見せることだけは約束していた。

 圭は上半身は裸だったが、トランクスは穿いていた。まだ、勃起の兆候は、私の見る限り起きていないようだった。

 程よく利いたエアコンの音、フル回転している空気清浄機の音が部屋中を埋め尽くしていた。

 照明は、誰が調整したのか気づかなかったが、明るくも暗くもなく、幾分赤みを帯びた優しい光で部屋中を包み込んでいた。

 ベッドの端に佇んでいた圭が、ベッドに上がった。その動きに、瞬間視線を送った有紀が、目を閉じた。

 有紀がはじまりのベルを聞いただろうが、私も、はじまりのベルを聞いていた。

 “……有紀、一緒の気持ちだよ……”私は無言で、有紀に語りかけた。なぜか、美しい姉妹が、暴君な弟に、交互に犯される倒錯を感じた。しかし、その思いが、思いがけぬ効用をもたらし、私の欲情にも火をつけた。

 急に、有紀と圭の行為の様を、早くみたい欲望がふつふつと湧いてきた。

 そして、一人の男のペニスによって、交互に貫かれる情景が浮かび、膣奥が僅かに目覚めだしていた。

 圭が、有紀の指先に触れ、僅かずつだが確実に、有紀の身体を我が物にする歩みをはじめていた。

 私には、あんな礼儀正しい行為に出なかったのに、と思った。

 怒るわけにはいかなかったが、なにか釈然としない中で、圭が確実に、有紀を抱くのだという方向に進んでゆく姿に、幽玄で、その癖。淫猥な姿を見ていた。

 まるで、有紀の舞台における演技のようなシチュエーションがそこにあった。

 “そうか!圭は舞台上の有紀と圭を演じている”考え抜いた末に、圭がたどり着いた心づもりは、これだったのか。

 私は、圭に感動した。そして、その意図を瞬時に受けとめ、圭の相手役をするヒロインに同化してゆく有紀の動き、それも感動だった。

 私も、その舞台に立ちたい。私は、情欲とは別の衝動の中で身悶えた。

 子供のころ、ままごとの仲間に入りたくて、横に佇み、声を掛けてもらうのをじっと待つ子供のような心境になっていた。

 圭は言葉を発していなかった。有紀も言葉を発していなかった。互いの目と目が話していた。

 少なくとも、唯一の観衆である私には、そのように見えた。そして、舞台上で共演したい衝動と、恥じらいのある肉欲が芽生えていた。

 ふたりの唇が重なった。二つの唇は蠢きあい、息すらしていないように見えた。時折、有紀が吐息をはき、圭がその吐息を空中で受けとめ吸い込んでいるように見えた。

 美しかった。セックスに向かっているふたつの裸身ではなかった。観たことはないのだが、モダンバレーの舞台を観ている気持ちもあった。そして、私もモダンバレーが踊れるだろうかと、ふと不安にもなった。

 ふたりの唇の重なり合いは長かった。互いの唾液が交わされ、融け合っているようにさえ見えた。

 私の腕は、自分の思いとは無関係に動き、バスローブの前に引き込まれていった。

 完璧に濡れている、自分のバギナをやさしく、性的にではなく、妖精のような手触りで触れていた。

 唇を重ねたまま、有紀の身体が開かれた。圭のペニスが、シルエットになって、私の目線をくぎづけにした。

 完璧なシルエットをみせつけていた圭の怒張がゆっくりと、唯一の観客の目を愉しませるため、否、苛立たせるために、スローモーションのように沈んでいった。

 “は~ぁ”私の耳には、有紀の口から感嘆の吐息が洩れたのを聞いた。

 私の座っているラブチェアーから、ベッドという舞台装置は、逆光になっていた。その光が、二人の動きに非現実的に映しだしていた。

 圭と有希の行為は、舞台に立つ役者としての役得として、免罪符を与えられているようだった。なにをしても、それは舞台における行為であり、それ以上でも以下でもない。

 しかし、私はリアルな観客席にいたので、免罪符は持ちあわせていなかった。私の指は、まさにリアルな粘液で滑っていた。

 淫猥な行為に耽っているのは私だけで、ベッドの二人は非現実にいる。

 ひとり取り残されている気持ちは募った。いまにも飛び入りで舞台に駆けつけ、“私にも免罪符をください”と言いたい衝動があったが、必死で堪えた。

 堪える理由も見つからなかったが、ただ股間を濡らした女が、突然舞台に飛び入り参加した瞬間、ブーイングの嵐が待ち受けている感じが、私の情動を押しとどめた。
 つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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