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終着駅483


第483章

「劇団の事務の話は決まりだね」有紀は、車に乗り込むと、断定的に口にした。

「えっ?そんな話はしてないよ」

「私は、あの時、無言で姉さんに尋ねたでしょう。私の劇団手伝ってくれる?って。そしたら、姉さん、何でもするわって、無言で答えたはずよ」

「それって、全部作り話でしょう?」

「でも、やっても良いかなって思っているよね」

有紀は、腿のつけ根の部分に手を置いて、強制的な返事を待っていた。

「出来るかどうか判らないけど、やってみようか……」私は、誘導尋問に簡単に嵌められていた。ただ、その罠が、私を不幸に導く罠のようには思えなかった。

私は、そうして、有紀の甘い罠に、自らの運命の一歩を託していた。

竹村と結婚した時も、子供を妊娠したいと言い出した時も、私が、自覚的だった。しかし、今度の行動は、他者の力に、運命をしばらく預けたい気分になっていた。

そして、その他力の草原には、一本の道さえも見えなかった。

これで良いと決断して、私は劇団の事務局長になった。

名前は立派だが、小口現金の管理と、仕訳と帳簿入力だけの事務局長だった。

要らないと云うのに、30万円の給料を取るように命じられた。

その額は、シングルマザー基金の副理事長の報酬と同額なので、有紀にしてみれば、その報酬を私に返金している気分だったのかもしれない。

劇団の繁忙期は除き、劇団への出勤は、月水金の三日なのだから、かなりの高給だった。ただ、伝票や帳簿の入力を家でやっていたので、週5日は劇団の仕事に関わることになった。

それでも、有紀は、大金でも心配なく預けられる私の存在は貴重だったらしい。

初めの1か月ほど、“竹村ゆき”を連れて出勤していたが、通勤時間帯からずれているとは云うものの、子連れは、容易ではなかった。

そんな時、田沢君のお母さんからメールが入った。

“ご無沙汰しています。涼さんも、ゆきちゃんもお元気そうなので、安心しております。
息子から、涼さんがゆきちゃんを連れて、劇団の事務を手伝っていると聞かされ、チョッと吃驚しています。
大丈夫かな?時折、そんな老婆心が浮かんできます。
息子の話を聞いている内に、涼さんの出勤日だけ、通い保母さんしてあげられたら、と思うようになりました。
問題なければ、お手伝いさせてください。私も、ゆきちゃんがいなくなって、ちょっぴり寂しい気持ちです。
では、とり急ぎ 田沢奈津子”

劇団の事務所にいても、滅多に座長の“滝沢ゆき”と顔を合わせることはなかった。驚くほど、有紀の日常が、多忙だと云うことが理解できた。

有紀が、シナリオと座長だけでやって行きたいと、希望を抱くのも納得出来た。規模が大きくなれば、それなりの組織の分担は欠かせなかった。

有紀と相談するのは夜になりそうなので、取りあえず、“大変、有難いお話なので、前向きな方向で考えたいと思います。

明日、正式にお返事させて頂きます。”田沢君のお母さん”田沢奈津子さんに返信した。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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