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終着駅475


第475章

三上社長との話し合いはスムーズに進展した。

金子弁護士が三上商事の顧問弁護士であることも幸いした。私の40%の株式の持ち分から、11%分を三上社長に譲渡することになった。11%の譲渡金は金子の事務所の算出により、1億1千万円となった。

これで、三上商事の株式構成は三上社長51%、竹村涼29%、その他20%の持ち分になった。

その代りと云うわけではないが、私と三上商事の間に、5年の顧問契約が結ばれた。月額は、私が会社を辞める時の基本給に近い額で、30万円だった。特に、私には異論はなかった。

それから二か月。

“竹村ゆき”と私と有紀の三人の生活がはじまった。

正確には、竹村ゆきは泣いて、オッパイを飲み、眠る存在なので、まだ、三人と云うには早すぎた。

退職してしまって、どれほど退屈に悩まされるか、相当にプレッシャーだったが、杞憂だった。

体力の回復期と重なった所為もあるのだろうが、それなりに多忙な生活だった。

あと一カ月足らずで、吉祥寺の家も竣工、入居の段取りになっていた。そのお陰で、私は引っ越しの準備にも追われていた。

「ねえ、有紀、あと一カ月切ったよ。アンタ、引っ越しの準備、しなくてもいいの?」

「いや、しなきゃならないんだけど、忙しいし、毎晩、ここに帰ってきちゃうし、時間がないのよ」

「そうね。だったら、全部おまかせとか云う引っ越しにしてしまう積り?」

「それも拙いな。“滝沢ゆき”って分っちゃうもの沢山あるから、それは、ちょっとね」

「だったら、私が、整理に行っても良いよ。丁度、田沢君の家に子供預けて、いける日狙って行ってやるよ」

「身体の方、もう大丈夫?」

「まあ、疲れたら、やらなければ良いわけだしね。あの部屋の契約、今月末でしょう。10日しか残っていないよ」

「そうか、だったら頼もうかな。整理整頓とか、分類とか関係ないから、片っ端から、段ボールに突っ込んでもらえれば、それで良いから」

有紀はキーホルダーから、彼女の部屋の鍵を取り出して渡して寄こした。

「鍵のスペア―あるの?」

「事務所に二本あるから、大丈夫」

そうして、私は引っ越し請負人になった。田沢君のお母さんは、喜んで、“竹村ゆき”を預かってくれた。

夕方、遅くなっても4時までには戻ってくると告げて、有紀のマンションに急いだ。

管理室に顔を出すと、気の良さそうなお爺ちゃんが出てきた。

「あの、滝沢ですけど、Y運輸から……」

「あぁ届いていますよ。直ぐ、お部屋の方に持って行きますから、部屋の方でお待ち下さい」私がすべてを言い終わらない内に、管理人は応対した。

思っていた以上に、有紀の部屋は整理されていた。デスク周りは、流石にシナリオを書いている現場と云う雰囲気で、乱雑になっていたが、資料の類なので、まとめて、一つの段ボールに入れてしまえば済みそうだった。

ものの五分もせずに、チャイムが鳴った。管理人のお爺ちゃんは、女優の部屋を、チョッとで良いから覗きたい素振りが見えたが、段ボールの束を受け取り、私は、軽く礼をして、ドアを閉じた。

私は、途中で買ってきたサンドイッチと飲み物を冷蔵庫に入れ、一緒に買ってきたマジックペンを片手に、さて、どこから手を着けようか、と部屋を見回した。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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