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終着駅ー4

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第4章

 「お待たせ」私は軽い口調で圭の背中を叩いた。
 「相変わらず準備が早いね。有紀姉さんだったら、1時間は間違いなく待たされる」
 「待ち合わせが、アンタでなければ、私だってもう少し磨いてくるわよ」私は、重大な出来事が間近に迫っていることを糊塗する態度で、軽々しく話した。圭も異存はないようだった。
 「デートの相手が、俺で悪かったね。まあ、デートってより、エクササイズの教室にいくようなもンだろうから」圭が暗に、これから起きることを知っていると告げた。賢く、気配りの利く男だ。それなのに、いざと云う時に野性味が出ないのが欠点の男なのだ。そうして、そういう男に育てた責任の一端は、自分にもあると感じていた。
 「新宿まで出た方が良いよね」
 「そうだね、間違っても誰かに見られるのは拙いし」
 「じゃあさ、区役所通りの入り口で待ち合わせしようよ」
私は最初に来た電車に乗った。どんな理屈で、圭のペニスを受けつけるべきか、目まぐるしく考えが浮かんでは消えた。エクササイズ、デリヘル。この二つのワードがキーだと思った。つまり、私はセックスカウンセラーの役に徹すれば良いのだ。いや、役ではなく、本当にカウンセラーになり切り、料金も請求する方が納得できるに違いなかった。考えがまとまると、意外に不安は消えていた。
 部屋は広くて清潔な感じだった。二人だけの空間としては広すぎて、親密性が阻害されそうだったが、無視した。
 「圭さ、シャワー浴びておいでよ」素直に従う圭の態度に満足しながら、有線放送のチャネルをジャズに合わせた。調光も弄繰り回し、自分の容貌にフィットする明るさを見出していた。まじまじと私のすべてを圭に見られるのは嫌だった。でも、視覚で性的興奮を呼び起こす程度の明かりは必要だった。真っ暗闇でセックスが出来るのは、狭いアパート住まいの夫婦の特技に違いない。そんな評論家のようなことを考えながら、圭に伝える契約内容をなぞっていた。圭は、私が逃げるとでも思ったのか、そそくさとバスルームから出てきた。
 「どうしたのよ。いつもの長風呂男が随分早いのね」私はからかいながら、満足な気分だった。
 「なんだかさ、風呂に浸かっている間に、夢が消えてしまいそうだったから…」
 「大丈夫よ。カウンセラーは請け負った仕事には忠実なものよ。安心してビールでも飲んで待ってて。ああそれから、調光は触っちゃ駄目よ」私はバスルームに向かいながら、背中に圭の視線を感じたが、素知らぬふりをして、バスルームに消えた。
 陰毛の手入れを怠っていた。手で触れる限り、かなり密生していた。二週間前に剃った大陰唇の陰毛は一番痛そうな長さになっていた。圭が弟だからといって、剛毛の姉さんなどと、思われたくはなかったし、チクチクと痛みまで患者に味あわせるのはカウンセラーとして失格なのだろうと、念入りに剃毛した。T字の剃刀が確実に大陰唇の力強い陰毛をすべすべにした。指先に触れる大陰唇は、ひたすら滑らかな感触なものとなり、圭の眼に触れても堂々としていられる安堵感があった。
 折角の勝負下着、やはり圭に脱がせるところから訓練するのがベストだと思った。面倒な気持ちにもなったが、これは仕事よ、と自分に言い聞かせ、下着をつけ直し、薄手のバスローブをはおり、脱衣所を出た。
 圭は缶ビール片手にテレビを見ていた。NHKのニュースのようだったが、特に見入っているわけでもなく、ただ画面の動きを追いかけているように見えた。
「テレビ消して、先ずは契約の話しようか」
「そうだった。すっかりリラックスしてしまったよ」
「しっかりしてよ、あんたは今から私の患者さんよ。実戦込みのセックスカウンセラーってさ、料金高そうだけど、どう思う」
「たしかに高いと思うよ。俺さ、決めたンだ。涼ねえさんに性の手ほどきして貰うって、異様に重大だと思うんだよ。いま現在俺の貯金って300万くらいあるんだけど、その中から100万くらい渡そうと思うンだけど、それで良いかな」圭が突飛もない金額を口にした。
「圭、あんた何を言ってるかわかってるの、100万って言ったンだよ」
「もちろん分かってるよ。不足だったら、また別に用意しても構わないし」
「あのさ、何回か実戦はするけど、永遠にするわけじゃないよ。絵美さんとの関係が成功したら、私の役目は終わるンだから、そんなに必要ないよ」
「いや、そういう意味のお金じゃなくて、涼ねえさんへの感謝というか、最高の愛情への償いというか、上手く表現できないけど、今まで生きてきた中で最高の感激を表す方法ってのかな」
「そう、じゃあ預かっておくよ。必要になったら、そこから貸したげるよ。でも、大丈夫なの。結婚の費用とかもあるわけだし」
「うん、その辺は大丈夫。俺の仕事知ってると思うけど、猛烈な給料なんだよ」
「猛烈ってさ、年収にするとどのくらいなの」私は半ば好奇心で尋ねた。
「多分だけど、1200万くらいかな」圭はこともなげに答えた。大学出て3年の圭の年収が1200万。ファンドマネジャーの収入が高額なのは知っていたけど、そんなに高いとは、想像もしていなかった。
「そんな高給取りとは知らなかったわ。ファンドマネジャーって全員がそんな給料なの」
「必ずしも全員が高給とは限らないよ。腕次第と云うか、運もあるよね。だから。俺の年収も、いつまでも2000万以上が続くとも思えない。多分、平均してしまうと900万前後かな」
「そうなの。圭がそんな高給取りってリアリティないよね」私は笑うしかなかった。そして、30歳大卒の私の年収が500万。どこか複雑なものがあった。
「じゃあさ、圭の100万貰って、ちょっと贅沢しても罰は当たらないってことね」私は冗談のように本気を口にした。
「そう、それで良いンだと思う。俺ってさ、俺を育ててくれたのは涼ねえさんだって記憶しかないンだよ。おふくろは、教師三昧の生活で、産みっぱなしって感じだったろう。幼稚園に行き出した頃から、俺の守護神は姉さんだったよ。だからさ、こういう変なことが起きなくても、姉さんが結婚する時は、出来るだけヘソクリ持って行って貰いたいって決めてたンだよ」圭がいつも通りの明るさで、言葉を発していた。
圭から“育ての親”と名指しされた戸惑いが、これから自分が圭に行うエクササイズとのギャップを埋めるのは容易ではないと思ったが、既に賽は投げた後だった。
「そう。そう言われればそんな気もするね。じゃあさ、私と圭のエクササイズは近親相姦ごっこ風ってことになるね」
「いや~、違うと思うけど…」私は圭の唇に指を当てた。
「もうアンタは口をきいては駄目。“ウン”だけを口にして、従うのよ。わかった?」私は目に力を籠め、もう絶対に言葉を交わすなと命じた。
 私は圭の眼を見つめたまま唇を近づけ、そして目を閉じた。

つづく
プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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