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終着駅ー4

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第4章

 「お待たせ」私は軽い口調で圭の背中を叩いた。
 「相変わらず準備が早いね。有紀姉さんだったら、1時間は間違いなく待たされる」
 「待ち合わせが、アンタでなければ、私だってもう少し磨いてくるわよ」私は、重大な出来事が間近に迫っていることを糊塗する態度で、軽々しく話した。圭も異存はないようだった。
 「デートの相手が、俺で悪かったね。まあ、デートってより、エクササイズの教室にいくようなもンだろうから」圭が暗に、これから起きることを知っていると告げた。賢く、気配りの利く男だ。それなのに、いざと云う時に野性味が出ないのが欠点の男なのだ。そうして、そういう男に育てた責任の一端は、自分にもあると感じていた。
 「新宿まで出た方が良いよね」
 「そうだね、間違っても誰かに見られるのは拙いし」
 「じゃあさ、区役所通りの入り口で待ち合わせしようよ」
私は最初に来た電車に乗った。どんな理屈で、圭のペニスを受けつけるべきか、目まぐるしく考えが浮かんでは消えた。エクササイズ、デリヘル。この二つのワードがキーだと思った。つまり、私はセックスカウンセラーの役に徹すれば良いのだ。いや、役ではなく、本当にカウンセラーになり切り、料金も請求する方が納得できるに違いなかった。考えがまとまると、意外に不安は消えていた。
 部屋は広くて清潔な感じだった。二人だけの空間としては広すぎて、親密性が阻害されそうだったが、無視した。
 「圭さ、シャワー浴びておいでよ」素直に従う圭の態度に満足しながら、有線放送のチャネルをジャズに合わせた。調光も弄繰り回し、自分の容貌にフィットする明るさを見出していた。まじまじと私のすべてを圭に見られるのは嫌だった。でも、視覚で性的興奮を呼び起こす程度の明かりは必要だった。真っ暗闇でセックスが出来るのは、狭いアパート住まいの夫婦の特技に違いない。そんな評論家のようなことを考えながら、圭に伝える契約内容をなぞっていた。圭は、私が逃げるとでも思ったのか、そそくさとバスルームから出てきた。
 「どうしたのよ。いつもの長風呂男が随分早いのね」私はからかいながら、満足な気分だった。
 「なんだかさ、風呂に浸かっている間に、夢が消えてしまいそうだったから…」
 「大丈夫よ。カウンセラーは請け負った仕事には忠実なものよ。安心してビールでも飲んで待ってて。ああそれから、調光は触っちゃ駄目よ」私はバスルームに向かいながら、背中に圭の視線を感じたが、素知らぬふりをして、バスルームに消えた。
 陰毛の手入れを怠っていた。手で触れる限り、かなり密生していた。二週間前に剃った大陰唇の陰毛は一番痛そうな長さになっていた。圭が弟だからといって、剛毛の姉さんなどと、思われたくはなかったし、チクチクと痛みまで患者に味あわせるのはカウンセラーとして失格なのだろうと、念入りに剃毛した。T字の剃刀が確実に大陰唇の力強い陰毛をすべすべにした。指先に触れる大陰唇は、ひたすら滑らかな感触なものとなり、圭の眼に触れても堂々としていられる安堵感があった。
 折角の勝負下着、やはり圭に脱がせるところから訓練するのがベストだと思った。面倒な気持ちにもなったが、これは仕事よ、と自分に言い聞かせ、下着をつけ直し、薄手のバスローブをはおり、脱衣所を出た。
 圭は缶ビール片手にテレビを見ていた。NHKのニュースのようだったが、特に見入っているわけでもなく、ただ画面の動きを追いかけているように見えた。
「テレビ消して、先ずは契約の話しようか」
「そうだった。すっかりリラックスしてしまったよ」
「しっかりしてよ、あんたは今から私の患者さんよ。実戦込みのセックスカウンセラーってさ、料金高そうだけど、どう思う」
「たしかに高いと思うよ。俺さ、決めたンだ。涼ねえさんに性の手ほどきして貰うって、異様に重大だと思うんだよ。いま現在俺の貯金って300万くらいあるんだけど、その中から100万くらい渡そうと思うンだけど、それで良いかな」圭が突飛もない金額を口にした。
「圭、あんた何を言ってるかわかってるの、100万って言ったンだよ」
「もちろん分かってるよ。不足だったら、また別に用意しても構わないし」
「あのさ、何回か実戦はするけど、永遠にするわけじゃないよ。絵美さんとの関係が成功したら、私の役目は終わるンだから、そんなに必要ないよ」
「いや、そういう意味のお金じゃなくて、涼ねえさんへの感謝というか、最高の愛情への償いというか、上手く表現できないけど、今まで生きてきた中で最高の感激を表す方法ってのかな」
「そう、じゃあ預かっておくよ。必要になったら、そこから貸したげるよ。でも、大丈夫なの。結婚の費用とかもあるわけだし」
「うん、その辺は大丈夫。俺の仕事知ってると思うけど、猛烈な給料なんだよ」
「猛烈ってさ、年収にするとどのくらいなの」私は半ば好奇心で尋ねた。
「多分だけど、1200万くらいかな」圭はこともなげに答えた。大学出て3年の圭の年収が1200万。ファンドマネジャーの収入が高額なのは知っていたけど、そんなに高いとは、想像もしていなかった。
「そんな高給取りとは知らなかったわ。ファンドマネジャーって全員がそんな給料なの」
「必ずしも全員が高給とは限らないよ。腕次第と云うか、運もあるよね。だから。俺の年収も、いつまでも2000万以上が続くとも思えない。多分、平均してしまうと900万前後かな」
「そうなの。圭がそんな高給取りってリアリティないよね」私は笑うしかなかった。そして、30歳大卒の私の年収が500万。どこか複雑なものがあった。
「じゃあさ、圭の100万貰って、ちょっと贅沢しても罰は当たらないってことね」私は冗談のように本気を口にした。
「そう、それで良いンだと思う。俺ってさ、俺を育ててくれたのは涼ねえさんだって記憶しかないンだよ。おふくろは、教師三昧の生活で、産みっぱなしって感じだったろう。幼稚園に行き出した頃から、俺の守護神は姉さんだったよ。だからさ、こういう変なことが起きなくても、姉さんが結婚する時は、出来るだけヘソクリ持って行って貰いたいって決めてたンだよ」圭がいつも通りの明るさで、言葉を発していた。
圭から“育ての親”と名指しされた戸惑いが、これから自分が圭に行うエクササイズとのギャップを埋めるのは容易ではないと思ったが、既に賽は投げた後だった。
「そう。そう言われればそんな気もするね。じゃあさ、私と圭のエクササイズは近親相姦ごっこ風ってことになるね」
「いや~、違うと思うけど…」私は圭の唇に指を当てた。
「もうアンタは口をきいては駄目。“ウン”だけを口にして、従うのよ。わかった?」私は目に力を籠め、もう絶対に言葉を交わすなと命じた。
 私は圭の眼を見つめたまま唇を近づけ、そして目を閉じた。

つづく

終着駅ー3



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第3章

 「アンタさ、女が怖いの?」
 「怖いってことはないよ。ただ、痛くないかなって思っちゃうんだよ。今まで、人を痛い目に合わせるなんて考えたことないしさ」
 「あのさ、痛いってのも、ふたつあんじゃないの?」
 「ふたつ?」
 「そうよ。二つあるのよ、痛みには。体が痛い場合、そして心が痛い場合ね」
 「でもさ、体が痛いのは、全員だけど、心が痛いかどうかは分からないよ」
 「そうりゃそうだけど…。でも、私が彼女だったら傷つくな、絶対に。それ以上入って来ない、覚悟しているのに。どうして、思いっきり終わらせてくれないの?私だったら恨むかもよ」
 二人の間に沈黙が続いた。
 「拷問みたいなものかな?」
 「拷問まではいかないけど、どうしてなンだろうって思うよね。どこか、私の何かが気に入らないのか。それとも、この人少し不能の気があるのかしら、とかね」
 私は半分冗談めかして、圭と性的な話をしていた。ただ、僅かにだけど、自分のバギナが変化しているのを実感した。深く考える事はなかったが、話しながら、圭がまだ大学生だった頃、寝起きの悪い圭を起こそうとした時に、圭の勃起したペニスを目撃したことを思い出していた。二十歳前後の男の朝だち勃起があんなに強圧的姿なことに、ショックを受けた記憶だ。
 「美絵が、涼ねさんだったら良かったのに…」圭がぼそりと口にした。
 「えっ?」私はちゃんと聞こえたけど、聞き返した。
 「あぁいや、なんでもない…。ただね、ねえさんが他人だったら良かったなって、ちょっと思ったんだよ」
 「私が他人だったら、なによ。デリヘル嬢の代わりでもさせようっての?」
 「まさか、そういう意味じゃなくて。結婚できるのになって思ってさ」
 「アンタ、ほんとは年上が好きなの?」
 「いや、そうでもないと思う。でも、涼ねえさんなら、何でも言う通りにしていれば、間違いは起きないからね。スッゴク安心なンだよ」
 「なによそれ。マザコンみたいなもンじゃないのよ」と言いながら、圭の自分への依存度に満足していた。その時からだろうか、自分の思うがままの人男が一人くらいいたって良いのではないか、相手にも異存はないのだろうから…。
 「マザコンとは違うさ。ちゃんと一人の人としてリスペクトしてるンだよ。親子関係とか兄弟とかの関係じゃないなんかだよ」圭の言葉は、偶然かもしれないが、姉としてではない私の存在を感じていると告白されているのかもしれない。そんな危険な雰囲気が漂いはじめた。
 「圭?まさか親子とか兄弟姉妹じゃない関係ってどういう意味?なんだかさ、アンタ、私に惚れてるンじゃないよね。まさかね、それはないね。アンタのオムツ取り替えてた姉さんに惚れたら気味悪いよね」私は、漂う空気に逆らわず、冗談めかして核心に迫っていた。
 「わかんない。惚れてるってのとも違う。ただ、姉さんって存在とも違う」
 「嬉しいような、迷惑なような話になってきたね。アンタと美絵さんのエッチをどうするって話だったのにさ」
 「たしかに。でも、涼ねえさんと話してるうちに、なんだか姉さんとの話の方が重要かも、なんて思ってきちゃうよ」圭も、奇妙な方向に話が進んでいく展開に心地よく戸惑い、その戸惑いの帰結にぼんやりと期待をもった。
 「親でもない、姉でもない、男でもない。ぶっちゃけ、女だってことじゃないの?」私もこの奇妙な空気の帰結を知りたかった。もっとざっくばらんに表現すれば、バギナの中で滲み出ている粘液が、どんな運命を辿るのか、早く知りたい気分だった。
 「そうよ圭、アンタさ、私の女に興味があるんでしょう。正直に白状しなよ」私は乱暴に畳みかけた。
 「かもしれない。でもそんな馬鹿なことが許されるとも思っていない。だから、気持ちがグラグラしてるンだよ」
 「だよね、アンタと私がそうなったら、近親相姦だよ。ああ何てことよ。デリヘルとエッチするより、百倍、美絵さんへの裏切りだよ」私は、自分が真逆の方向に仕向けている言葉を吐きながら、その逆の状況が生まれることを望んでいる自分を感じた。悪魔なバギナを私は持っているンだ、この時私は強く自覚した。悪魔なバギナを持つ女。
 「それは違う」圭が断定的に強い口調で否定した。
 「違うンだ、美絵への感情と涼ねえさんへの感情は絶対に違う。美絵への愛情と姉さんへの恋心は違う」
 「愛情と恋心か…」私は違うと思った。美絵さんに対する感情は恋愛であり、愛情にまでは至っていない。私への感情には愛情は混入しているが、男女の情緒ではない。多分、姉と弟の関係にありがちな血縁の安心感、至近な距離、そして親密性の問題なのだと思った。そこに、いびつであっても、男女関係が入り込んだときに、その関係性がどんなものになるのか明確な答えはないのだろう。それだけに、面白い試みだとは思った。他人ごとなら、充分にエンジョイできるエンタテインメントなのだけど、自分が主演を演じるとなると躊躇いが先行した。躊躇いと好奇心が綯交ぜになる中で、私は何か話さないと、圭が遠くに行ってしまうような気分だった。
 「ねぇ圭さ、私と契約する」私は契約の中身を告げず、唐突に切り出した。
 「どんな契約か知らないけどさ、姉さんとの契約にサインするよ。俺にも姉さんにも有利な契約内容なンだろうから」
 「そうね、誰も損はしない契約かな。いや、美絵さんに知られたら、誤解は招くかもね」
 「そうなンだ。でも誤解だったら、その誤解を解けば良いわけだし、なんとか修復可能じゃないかな」圭は、私の誘惑に抗う気はさらさらないようだった。薄々私の意図を察した感じがした。それだけに、契約の具体的内容に言及する必要も感じなかった。
 「出かけようか」
 「うん良いよ。俺が先に出るわ。北口のセブンでウロウロしているから」
 「わかった、出来るだけ早く行くから、先に行って」
契約内容を互いに一言も語らず、本当に意志は通じているのか、圭がそそくさと家を出ていった後になって、私は不安を憶えた。でも、賽は投げられた感じだし、行くところまで行くしかないのか、私はシャワーを浴び、勝負下着を身につけた。圭が下着に手を掛ける瞬間を想像しながら不安を憶えるのだが、行動は素早かった。
偶然のことだけど、半年やめていたピルを一週間ほど前から飲み始めたのは、何かの啓示があったのだろうか。そんなことを考えながら、今日の一粒を飲み込んだ。こんな出来事のために飲みだしたピルではないのに、なんという皮肉な薬効なのかしらなどと、意味もなく考えながら家を飛び出した。
 途中で妹の有紀に出会ったが、流れるように嘘を口にする自分に、悪い女、とつぶやいた。妹のことは言える私ではないが、有紀は男出入りの激しい女だった。30歳になっても、若い男を漁る生活をエンジョイしているのだが、貢ぐばかりで、得るもののない無駄な時間を過ごしている馬鹿な女だと思った。自分は違う。男に貢ぐなんて、人類の掟に逆らっていると思った。男は女のバギナに財産を注ぎこむもので、女がペニスに金銀財宝を捧げるなど、正義に反すると思った。だから、私の男遍歴は正義であり、有紀の男漁りは不正義だと思った。勿論、そんなことを考えながらも、似た者同士の姉妹だと理屈では理解していた。
つづく

終着駅ー2

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第2章

 その出来事は五年前、二人の間に偶然訪れた。人一倍明るい性格の弟が、いつになく沈み気味だった。数日は見て見ぬ振りをしていた。どうせたいした事じゃないだろうと誰もが思っていた。それから十日近くが過ぎても、圭の落込みは酷くなる一方だった。さすがにアネゴ気取りで圭を子分扱いしていた私は責任を感じてしまった。
 家には誰もいなかった。そういう状況の方が、私も気楽に尋ねられるし、圭も答えやすいと思った。いつも通り、私は圭の部屋をノックした。ノックと同時にドアを開けるのだから、ノックの意味があるのかどうか判らない。ただ、突然開けたわけじゃない程度のエクスキューズに過ぎなかった。
 「圭、コーヒーでも入れようか?」圭は、高校時代から使っているシングルベッドの大きな体を横たえていた。
 「うん、俺少しで良いかも」
 「飲まなくても良いってこと?」私は無頓着な姉を演じるように努めた。
 「いや、飲みたい。でも、少しで良いような感じ」
 「フーン、変な注文だけど、飲みたくないと云うよりマシだね」兎に角、私はいつものようにコーヒーを淹れた。
 ドリップ式のお手軽器具だが、香りだけは十二分に美味しい感じの仕上がりになっていた。せっかちな私は、誰も帰って来ないうちに、取りあえず、圭の落込みの原因だけは聞き出しておきたかった。180度違う態度になっているのだから、本人だって、その影響が家族に及んでいるくらい知らない筈はなった。
 「涼ねえさんのコーヒーはいつも美味しいよ。」圭が一口啜って答えた。
 「あんたさ、随分悩んでいるようだけど、悩んだら解決しそうな問題なの」私は単刀直入に聞いた。
 「うん、悩めばわかると云うより、コツのようなものが判れば解決する、そんな感じの問題だよ」
 「じゃあ悩むより、そのコツを見つければいいだけでしょう。彼女とのこと?」
 「彼女のことと言えば、最終的にはそうなンだけどさ、もっと一般的な問題なんだよな」
「なによ、ハッキリしない話ね、どういう意味?」私にとって、圭の言葉はその時点で意味不明だった。圭がなんのコツを知りたがっているか知っていたら、それ以上の相談に乗らなかったかもしれない。
 「まあ、自分でなんとかするよ。出来るだけ、これからは普通に振舞うからさ。気を遣わせてゴメン」相変わらず神妙に受け答えする圭に、私は幾分苛立っていた。
 「自分でなんとか出来ることなら、さっさと調べたり、試してみたり、エクササイズするしかないでしょう」私の苛立ちは、いつも通りに乱暴に圭を扱った。
 「涼ねえさんに相談できるような事だったら、俺だって悩まないさ。それが出来るなら、真っ先に話しているさ、涼ねえさんに相談できないから悩んでるンだよ!」圭にしては反抗的な口調だった。しかし、反抗をしていると云うより、激白しているような、悲鳴が含まれていた。私は、どうにかその場を繕っておきたかった。しかし、弟の親分的存在の片りんも見せずに、その場を去る勇気もなかった。
 「ねえさんに話せないほどヤバイ話なの?いいわよ、滅多なことでは驚かないから、話してみなよ。私の出る幕のない話なら、ねえさん速攻でギブアップするからさ。話すなら今のうちよ。いまに皆帰ってきちゃうよ」私は、意味もなく、圭を追い立てた。
 「笑うなよな。笑ったら、二度と涼ねえさんと話さないからな」
 「笑うわけないでしょ。アンタの大切な悩みだもん、真剣に聞くよ」私はこの時初めて、圭の悩みが、性的なこと?と云う危惧を持った。でも、矢を放ってしまった以上、元に戻すことは出来そうもなかった。
 「じゃあ話すよ。もし、問題外の悩みだったら、黙って部屋から出ていって、頼むよ」
 「了解、さあ話して」この時点で、圭の悩みが性的に違いないと確信した。でも、今更引き返す勇気もなかった。親分ねえさんのメンツの問題だった。
 「笑うなよ、絶対に笑うなよ」圭が深刻な口ぶりで、ひどくおかしなセリフを口にしていたが、私は真剣な顔つきを保った。
 「俺さ、経験ないンだよ。エッチのさ…」圭がぶっきらぼうに話した。やっぱり、そういう悩みだった。ヤバイなあ、と思ったけど、そこで、圭が望んだように、部屋を後にする勇気もなかった。聞くしかない、私は自分に強く命じた。
 「そうなンだ、でも最近の男って、意外に多いって聞いてるよ」私は衝撃を受けていない顔つきを保っているつもりで、一般論を口にした。
 「そうかもしれないけど、皆がそうでも、今の俺には慰めにもならないよ。現に、俺の目の前には、美絵って彼女がいるわけだからさ。彼女と上手く行かないことは、致命的なンだよ」
 「そういえば、そうね。一般論関係ないか。で、彼女とは未だってこと?」
 「いや、三回トライした」
 「でも、すべて上手くいかなかった」
 「上手く行かなかったのかどうかもわからない。自分でも、良くわからないけど、ちゃんと入っていた感じはあるし、出た感じもある。でも、何もなかったような感じもする」
 「はい?どういう意味なの?ちょっとさ、禅問答みたいでわかりにくいな」
 「たしかに。自分でも、どんな風に話して良いのかがわかんないから自分がおかしくて笑えてしまう。」
 「笑い事じゃないのはたしかね。でも、もう少し、その過程のようなもの、具体的に話してみない?」
 「その方が良いのかな。ラブホに入ったところから話してみようか」
 「シャワーとか浴びて、ベッドに二人が入った時点からで良いんンじゃないの」
 「それもそうだね。で、取りあえずキスしたり、胸を触ったりしながら、あそこに手をまわしてみた。指先で濡れているのもたしかめたので、挿入しようとしたンだよ」
 「そう、そこまでは大きな間違いはないわね」
 「俺も、これなら大丈夫だろうと、俺のアソコの先を、美絵のアソコにあてがったンだ」
「そこも間違いじゃないね」
 「で、入り口に侵入しようとしたンだけど、阻まれるンだよ」
 「阻まれるって、彼女が嫌がるってこと」
 「いや、そうじゃなくて、そこから、どんな角度で進んでいいのか分からないから、戸惑ってしまうンだよ」
 「入り口まで達したら、後はグイグイ入って行けばいいンじゃないのかしら」
 「いや、痛がられたら困るから、出来るだけ負担を減らした方が優しいのかなって思うと、無闇に突入って気になれないンだよ」
 「変だな~、勃起したペニスの先が入ったら、勝手に道なんて出来る筈だけど…」
 「問題の一つは、その勃起かもしれないんだよ。なんだか、オナニーしている時よりも、ぼんやりとデカイだけなンだよ。絶対に硬いって言いきれない」
 「そうなンだ。多分緊張で勃起が不十分なうちに、挿入しようとするからじゃないの?」
私は、もう逃げられないと覚悟したので、思いっきりリアルな表現で、事態を把握しようと思った。
 「正直、美絵を相手にすると、勃起が行ったり来たりしている感じなのさ。出来るだけ、硬いうちにと思うけど、思っているうちに、硬度不足になっているのかもしれない」
 「圭、アンタさ、自分でオナニーしているときも、同じこと起きてるの?硬度が増したり減っちゃったり」
 「多分ない。最後まで硬いままだと思う」
 「だったら、悪いけど、彼女のバギナで、オナニーするつもりになってみたら。相手の状況がどうなっているとか、これで良いのだろうかとかさ、そういうこと忘れて、とにかく一回オナニーをしてしまう、そういう気持ちになったら」
 「相手の人格を無視しちゃうわけだ」
 「そんな難しく考えたらダメだよ。そこまで行っているンだから、彼女は何をされるかなんて、覚悟はできているのよ。相手がどう思うか、それは二度目に考えるべきよ」
 「獣のように、ただ、入れて出しちゃえばイイってことかな」
 「決まってるよ。一回目から、見事なセックスする男なんていないよ。だんだん、馴染んできて、その女性がどのようなことを好むか、嫌がるか、そういうのは、それからよ。頭でっかちなセックスはダメだよ」
 「初めての時、そうしておけば良かったンだろうけど、今更、好き勝手にってのも、なんだかさ」
 「今からでも遅くないから、ソープだとかデリヘルとかで、経験しちゃったら」私は実際問題、圭の悩みに困惑していた。微に入り、男性が女性のバギナに挿入する過程や、挿入した後のことを説明できる知識は持っていなかった。幸運にも、されるがままに快感を得ていた私には、どのように行ったから良かった、と云う説明が出来なかった。
 「まさかあ、美絵がいるのに、そういうところで知識を得てくるってのも、なんだか不純だろう」圭は、演技とも思えない健気さをみせた。美絵さんが聞いたら、きっと嬉しくて感激するに違いなかった。
 「それにしても、三回とも入り口だけで終わったの」
 「それがさ、美絵も初めてらしいンだよ。だから、余計話がこんがらがって、ふたりで途方にくれるンだよな」
 「どっちも初体験か、あり得る話だよね。美絵さんって結構積極的だから、遊んでいたと思っていたけど、違うのね」
 「そうなンだよ、俺も当てが外れたっていうか、ああして、こうしてって言ってくれるのを期待してたンだけど…」
 「情けない人ね、今からでもイイから、デリヘル呼んで一回ちゃんと試しなよ。こういう場合、そういうのって許されるわよ。絶対に裏切りとかじゃないから」
 「そうかな、一度は考えたンだけど、やっぱり拙いかなってやめたンだよね」
 「やめた方が間違いよ。そして、一回でも成功体験しちゃえば、問題ないことよ。いまからでも遅くないわ。ラブホテルに入って、ベテランのデリヘル嬢をお願いしますって言ってごらんよ」
 「ねえさんよく知ってるよね、そういうこと」
 「馬鹿ね、週刊誌とか読めば書いてあるわよ、そのくらい」
 「やっぱり、そういう手段しかないか?でも、デリヘルってのは、やっぱりな…」
 私は、圭が素直な子供であった理由は、単に愚図だったのかもと疑った。そして、逆らわない男の子は、誰かが強烈なリーダーシップで引っ張られないと、自己決定出来ないのだろうかと疑った。
つづく

プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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