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終着駅430


第430章

神楽坂に戻った翌日、櫻井先生から、保育器の“竹村ゆき”の面会が、ご両親などへの面会が解禁になったと連絡が入った。

父に連絡すると、“お母さんは、解脱したのか、保育器からてからの孫を抱けばいいわけだから、そんなに急ぐこともないでしょう”と、こっちがビックリするような返事を返してきたと伝えてきた。

出かける前に、母乳の冷凍パックを病院の方に充分に渡してあったが、それ以降の溜まったパックを明日にでも、届けようと思いながら、金子弁護士に連絡を入れた。

金子は、解体の段取りが固まったので、退院中であるのなら、確認事項に目を通して欲しいと云うことだった。金子弁護士が夕方以降なら時間が取れると云うことなので、いつものファミレスSで6時に会うことになった。

時計の針は午後1時を指していた。病院に母乳パックを届けるには充分だった。

私は、保冷容器に母乳パックを詰めこんで、呼んでおいたタクシーに乗り込んだ。

タクシーの窓を次々と街並みが走り去るのを見ながら、なぜか、数年前の自分を思い出していた。

美絵さんと圭の事件は衝撃的悲劇だったが、薄情なのか、私自身の、人生に食い込んでくる事はなかった。

竹村との再会が、私の人生を捻じ曲げたことはたしかだった。

捻じ曲げたと云う表現は正しくないだろう。正しくはないが、間違いなく、私の人生に、他者が入り込んできたのは、あの時点が初めてだ。

圭が、潜り込むように私の人生に参加はしたが、結果的には、オーガズムと云うホワイトデーを置き土産にしただけだった。

以前、竹村と不倫関係にあったが、あの時点では、竹村は、あくまで他者であって、自分の人生の脇役に過ぎなかった。その点で、圭と同じだった。

しかし、再会後の竹村は、私の人生に食い込んできた。

いや、そうじゃない、私が、竹村の人生の一部に組み込まれたと言うべきかもしれない。幾分、自尊心を傷つける考えだったが、そのように解釈する方が妥当だった。

実際に、私の住民票には“竹村涼”と云う名前が記されていた。

そして、竹村涼として、竹村の家を継ぎ、その子供を産んだのだ。

竹村家が存在した場所で、同じ家ではないが、新たな家を作って棲む算段を実行しているのだから、私の人生に竹村が入ってきたと云うのは間違いで、私が竹村の人生に入り込んだというのが正確な表現だった。

主客転倒と云う言葉が浮かんだ。自分の人生を主体に考えていると、他者が自分の人生に入り込んできたように思えるのだが、客観的に見つめてみると、自分が他者の人生に入り込んでいた。

角度を変えてみるなら、無自覚で入り込んでしまったと云う事は、無自覚で組み込まれたと云う事にもなる。

ただ、竹村と云う男が死んでしまったために、入り込んだか、組み込まれたかは別にして、自分が、竹村と云う主客を演じる羽目になっていた。

つまり、滝沢涼の人生が終わり、竹村涼の人生が始まっていた。

あの再会の瞬間に、或いは、竹村とあらためて結婚を前提に結ばれた瞬間に、私は竹村の人生を引き継ぐことになっていた。

滝沢涼の人生の終着駅を実感した。そして、竹村涼と云う人生が用意された。

“終着駅が始発駅”そんな言葉が脳裏をかすめた。自分で思いついて、感心することは少ないが、“終着駅が始発駅”と云う言葉は気に入った。

そうだ、有紀頼んで、言葉通りのシナリオを書いて貰おう。その時には、私も出演させてほしいと頼んでもいいかな?私は奇妙な思いに耽りながら、病院のゲートに入って行く車の振動を心地よく感じていた。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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