第99章なにも、私が才色兼備で、非の打ちどころのない女などと云うことではなく、圭にとっては育ての親のような、心地よい支配と被支配な関係を構成していた所為だろう。私と弟である圭には、強硬な親密性が存在した。
たまたま、そのような親密性の中に、性的欲求が含まれていたに過ぎない。だからかもしれないが、私も圭も、近親相姦という類の罪の意識と云う枠組みの中で、自分たちの関係を再確認することはなかった。
他人は、言い逃れだと非難するだろうが、それが現実なのだから、何を言われても痛みはなかった。おそらく、圭が物心つくまでは、彼は私を母親だと勘違いして育ったのかもしれない。少なくとも、世界で一番身近な人だと思っていたのだろう。
それは、意識の中で起きた事ではなく、生活の中に、そうさせるものがあっただけだろう。呼び方こそ、涼ねえさんだったが、半分は母親変わりだったのだろう。
私は、その圭の甘えが可愛いあまり、甘えさせ過ぎたと云う反省はあった。そして、圭を、他者として再確認する作業を強いられた億劫さがあったが、どうも避けては通れない問題に拡大していた。
圭の、人格を分析するなど、考えることもなかった。第三者としての目線が欠如していた事実に向き合う必要があるようだった。少なくとも、有紀の目線の方が正しいかもしれないと、傾きかけていた。
「有紀の言う通り、美絵さんは、私と圭の関係を薄々疑っていたのかもね」
「おそらくね。いくら争いが嫌いでも、事実確認もせず、いきなり意趣返しするっての、変だよ。美絵さんは、結婚する前から、姉さんの存在が気になっていたのかもしれない」有紀は、取調室の検事のような口調で誘導尋問風に語った。
「なんだか、私が犯人みたいな雰囲気だけど、まあこの際、甘んじて受けて立つか」
「そういえば、例の奇妙な手紙ね。鬼塚啓二と鬼塚なんだっけ?」
「鬼塚みやこ……」
「その“みやこ”だけどさ、圭が使っていた鬼塚啓二って名前、圭が思いついたペンネームかどうかだよね。私、美絵さんが名付け親だと思うのよ。圭が、何気に、なんて名前が良いかなと口にしたら、彼女が、鬼塚啓二が良いんじゃない、なんて言ったような気がするの……」
「どうして?」
「根拠なんてのないわよ。ただ、圭の感覚に“鬼塚”って名前は不釣り合いなのよね」
「美絵さんだって不釣り合いなんじゃないの?」
「彼女の本性って、私たちは、殆ど知らないわけね。圭のお嫁さんの美絵さんしか知らないのよ。だから、二人とも不釣り合いなら、わからないことの多い方が怪しいんじゃないかな?」
「でも、それを使っていたのは圭なんだから、少し推理が飛躍しているみたい……」
「そうだ、私が圭に確認しちゃおうか。私だったら、姉さんが、その件で、凄く悩んでいるみたいだけど、あの名前は、どういう根拠でつけたのかって」
「直に聞いちゃうわけ。どうかな、チョッと待ってよ」私は、そのことで、圭への疑念を持った事情を思い出そうとしていた。
つづく
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