第97章「凄いもの見ちゃったわけね」有紀はコンビニで買ってきた納豆パスタを頬張りながら、半分考え、半分食欲を満たしていた。
「動画見てみる?」
「良いよ、そんなもの見なくて」
「それもそうね、不愉快になるだけだもの」
「つまり、事実関係だけ整理してみようよ」
「有紀に任せるわ。私、何とかしようと思ったけど、頭の中に事実と想像が一緒くたになっていて、全然だめなの」
「良いよ、考えてみるね。まず、どのような経緯か判らないけれど、美絵さんが、圭の浮気に気づいた。相手がどこの何者か、そのことへの興味より、浮気をしている事実が、美絵さんには重大だった。そこで、母親に愚痴ったかどうか、ここは憶測だから飛ばすとして、彼女も浮気で対抗しようとした。此処までは良いわよね」
「異議なし」
「そこで、彼女は、浮気相手の選別にかかった。その経緯も判らないけど、答えは、元彼だった“ナオキ”と云う人だった。ここも良いよね」
「異議なし」
「でもって、元カレの心情には、美絵さんへの恋情が色濃く残っていたので、彼女の行動は、飛んで火に入る夏の虫だった」
「ナオキって人が、強請りタカリをした証拠はないわけよね。状況的には、男が美絵さんを独占したいと強く思ったって感じだわ」
「そうなんだよね。本気で、美絵さんを、圭から奪いたいって感じがするのよ」
「その引きとめ手段が、セックス動画ってのは、随分子供臭いけど、他の手段が浮かばなければ、やっちゃうかもね」
「ただ、あの動画を見た時の印象は、圭に見せつけるような作りになっていた印象なんだよね。美絵さんを引き留めるためにって感じには思えなかったんだけど」
「そうなの、だったら、取りあえず、盗撮だけしておいたのかな?」
「そうね、単にナオキって人の趣味かもしれない。たまたま、美絵さんが別れようと言ったので、動画を利用しようとしたのかもね」
「姉さん、チョッと推理が変な方向に行っちゃったかも。その男は、美絵さんが死んだこと知らないんだから、脅迫の為もあるわよ」
「そうかな。常識的に考えて、盗撮した動画を亭主に送りつけ、美絵さんの心を引き留めるって、普通は考えないでしょう。余計、嫌になるんじゃない」
「そこだよね。こういうことする奴って、その辺の脳味噌が狂っているのかも?」
「いや、やはり、第一印象の通り、圭に見せつけるのが目的だったと思う方が自然だわ。処女はお前に取られたけど、女房を寝取ってやったぞ。そういう復讐成就の動画なんじゃないのかな」
「チョッと待って、口にしないで考えてみるよ。姉さんも、自分の頭で整理してみて」
私たちは無口になった。圭に動画が送られてきた、その根拠が何であるか、そんなことどうでも良いのかもしれない。美絵さんの自殺の原因にはたどり着くだろうが、原因が判ったからと云って、何かが変わるわけでもなかった。
美絵さんは生き返らないし、その動画で、圭は傷つくだろうが、因果応報な面もあるわけで、美絵さんを一方的に責める資格のある人間は、誰もいない。それなのに、彼女は自殺してしまった。つまり、美絵さんは、早とちりで死んでしまったとも言える。
つづく
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