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終着駅26-1 他の男のペニスを求める気はなかった


第26章-1

それから6か月が過ぎた。圭と美絵さんの結婚生活も始まり、姉と弟の親密な関係さえ除けば、私たち一家にも、美絵さん一家にも、平穏な日々が続いていた。

圭との関係は、お互いに無理をしない前提で、発覚することはあり得ない状況を確認しながら継続していた。正直、圭との性的相性の良さにのめり込んでいた私の身体は、他の男のペニスを求める気は、まったく起きなかった。

仕事も私生活も、平穏な充実の中にあったが、母はうるさいくらい、結婚の話を持ち出していた。

“涼、有紀が結婚するって言ってるのよ。アンタはどうするのよ?”毎日言うのは悪いと思うのか、だいたい週一のペースで、結婚話を持ち出してきた。私は、“有紀は有紀よ。私は私でしょう”のひと言を繰り返した。

そんなある日、妹の有紀が珍しく私の部屋をノックした。私はベッドの中で半分眠りについていたが、珍客だけに、応対せざるを得なかった。

「どうしたのよ、珍しいわね」

「どうも、ご無沙汰しちゃって」有紀は気怠さと妖気を漂わせた独特の雰囲気で部屋に入ってきた。

「有紀、結婚するんだってね、母さんから聞いたわ。おめでとう」

「そのことね、そんなにおめでたい話でもないのよ。でも、劇団のスポンサーの息子だから、色々あってね。半分、人身御供って感じかな」

「なによ今どき、そんな馬鹿な関係の結婚なんてあるの?細かいことは良いけど、劇団の為に、有紀は結婚するわけ?」

「いまさ、劇団は微妙な成長段階に入っているのよ。スポンサー企業が付くことで、舞台に割ける経費も増えたし、宣伝効果も出てきて、集客も順調に増えているのよ。劇団主宰の若きリーダーとして、時々はメディアへの露出も増え、地方テレビ局だけど、幾つか出演のオファーも来ているのよ。だから、このチャンスを逃すことは、私には出来ないの…」

「それで、そのスポンサーの人の息子さんと、有紀が結婚しなければならなくなったわけ?」

「それがさ、その息子さんっていうのが、ホモセクシャルなのよ。ただ、世間体として、見せかけの結婚生活をする妻として、私に演じて欲しいって話なのよ。なんだか奇妙な申し入れでしょう。勿論、母さんには、この事は言ってないけどね」

「なによ、私に、その秘密を共有しろってことなの?」

「そんなとこね。こんな変なこと、一人で抱えておけるほど、私は強くはないの。だから、姉さんにだけは知っておいて欲しいの」
つづく

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終着駅25 奇妙な手紙が届いたのは


第25章

奇妙な手紙が届いたのは、それから3週間後くらい経ったある日だった。記憶にない差出人になっている封書には“鬼頭みやこ”となっていた。封筒の裏表も印字されていて、書体がわからない手紙だったが、内容を読まない限り、何事もはじまらなかった。

『 拝啓
御無沙汰しております。先日、偶然にも涼さんをお見かけしたのですが、ホテルと云う場所柄も考えて、ついお声をかけるのを躊躇ってしまいました。ちょっと見た印象ですけど、とても充実した日々を送っているのだな、と羨ましく感じるお姿でした。涼さんのお元気そうな姿を見ただけで十分なのですけど、ついつい懐かしく、お手紙差し上げました。そして、少し、愚痴になりますけど、それに比べて、今の自分の状況は、なんなのだろう?そんなことを考えさせられるような、エレベーターを待っている、涼さんの後ろ姿が目に焼きついて離れません。ですから、貴女にどうして欲しいとか、そういうことではないのです。ただ、そんな風に生きている女がいることをお伝えしたかっただけです。また、色々な心境の変化や状況が変わったら、お手紙差し上げますね。
敬具

幸せな涼さんへ                                   醜いアヒルのみやこより 』
 

私は何度となく、その手紙を読み返したが、差出人を想像することが出来なかった。もちろん、印字されている便箋の裏表を見つめても、筆跡など判りようはなかった。

先日、圭がチェックインしている恵比寿のホテルに入るところを目撃されたのは間違いなさそうだった。そして、偽名であろう「鬼頭みやこ」と云う女らしい差出人が、何らかの悪意を籠めて、この手紙を書き、送りつけてきたことだけは、たしかだった。

……でも、私の私生活に興味や口出しをする人は誰なのだろう?差出人の名前が女だからといって、女だと特定すら出来ない。私に、恨みを持つ男は想像がつくけど、こんな陰湿な回りくどい手法を選びそうな男はいなかった。それに、最後の愛人とは一年近く前に円満に別れていた。男に、心当たりはない……

……素直に差出人の名前と文面、そして醜いアヒルの、という部分からも、女と受け止めるのが妥当だと思った。女だと範囲を狭めても、俄かに目に浮かぶ人物の心当たりはなかった。文面から察するに、若い女の文面ではない。三十は越えているだろう、もしかすると四十代かもしれない。……

……私より上の年代の女だ。仕事関係なら、年上の女はかなりの顔が思い浮かぶのだが、すべての人が、私の私生活を羨む境遇にいるとは思えない人々ばかりだった。高校や大学の先輩たちが、こんな回りくどい手紙を書いてくる可能性は殆どなかった……

……年上の女で、薄幸かもしれないと思えるのは、部下でもある映子くらいのものものだったが、恨まれるような利害関係は、まったく思いあたることはなかった。ただ、圭とホテルで待ち合わせした日、映子がお茶に誘ったのを思い出した。……

……まさか、私が断った程度で恨みに思うことはあり得ない。ただ、興味本位で私がどこに行くのか尾行した可能性はあるかもしれない。尾行して、私が一目散にエレベーターに飛び乗った姿を目撃した。でも、そのような事実を目撃したとしても、彼女が意味深な手紙を出すまでの根拠としては薄弱だった。……

差出人が映子である理由は殆どなかったが、多少、今までとは違った目で、彼女を観察しておくべきかもしれないと思ったが、同時に、その観察は、一か月も持たない注意力のように思えた。それに、一回程度の嫌がらせの手紙で右往左往するのもバカバカしい。気にはなるけど、差出人の目的が見えていないのだから、真剣に考えるのは、二通目の手紙が舞い込んだ時だ、と私は結論づけた。
つづく

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結衣との関係1-4


第1章-4

「どの辺ですか」俺は女に何気に尋ねた。

「重いでしょう、すみません。もうすぐですけど、替わりましょうか」

「いや~、替わらない方が利巧ですよ。半端に目覚められても困るからね」俺は笑いながら答えた。

事実、また大騒ぎされたら困ると云う気持と幾分の冒険心が頭をもたげていた。俺は俄か家族がいつの間にか本物の家族になってしまうような妄想を片隅に抱えて、女の道案内に従った。

「あそこのボロ屋です」と女が指差した先には一戸建ての家があるだけだった。俺のイメージがひとつ壊された。賃貸のマンションかアパートに住んでいると思い込んだ典型的核家族のイメージまでが壊れかけていた。

「ほう立派な一軒家ですね」俺は小ぶりだが建売ではない塀に囲まれた一軒家の玄関に佇んだ。

「本当にご迷惑おかけしました。いま降ろしますので…」女がすっかり寝込んでしまった子供を、俺の背中から降ろした。

「あら大変、背中が汗でびっしょり。どうしましょう」女は子供を抱えながら、泣きそうな表情を浮かべた。

「歩いてるうちに乾くでしょう」俺はどうしようもない気持の悪さを背中に感じながらも、玄関先から踵を返す覚悟を決めていた。

「それじゃ、チョット貴重な体験をさせて貰いました、ありがとう」俺は女が何らかの提案をしてくることを僅かに期待したが、意味もなく佇む不自然さに耐えられず踵を返した。

「やっぱり駄目です、汗を流さないと!」女が俺の背中に向かって強い口調で声をかけた。

「えっ?」

「このままサヨナラは気がひけます。申し訳ない気持が残って駄目です」俺は女の言葉を理解するために、ひと間の間隔があった。

「そう言われても、まさかアナタの家でシャワーを浴びるわけにはいかないでしょう」俺はふり返って、女に語りかけた。

「そうです、そうしてください。誰もいませんから、シャワー使ってください」

……おいおい、ありえないだろう。万が一、旦那が早引けでもして帰宅したらどうなるというんだ。間男に間違われるのがオチだろう。間男のようなことをしたのなら覚悟も出来るが、シャワーだけで間男は、あまりにも悲しい……

「いや~、ご主人に悪いから、やめておきましょう。貴女ともっと話がしたい誘惑はありますけどね」俺は冗談交じりに、女を軽く口説いた。

「主人はいません!」女は俺の思惑を知ってか知らずか、断固旦那が居ない、と宣言した。

「ご主人がいない?でもお嬢さんが…、いや余計な詮索だな」

「良いんです。居たけど、もう居ないんです」女は嫌に明るく答えた。

「ほう、追い出したんですか」俺も気軽に言葉を返した。

「ハイ、追い出しました。マミが1歳になる前に…。兎に角、お入りください、汚していますけど」女は子供を抱えて、玄関のカギを開け、俺を招き入れた。
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結衣との関係 1-3


第1章-3

公園の出口にある交差点に出た三人に別れが待っていた。俄か祖父と孫の関係は終わろうとしていた。

「それじゃぁ此処でお別れですね。僕は左側だから…」

「ありがとうございます、何となく私も楽しかったです。さあマミ、オジサンにサヨナラしないとね」女がマミと云う子供の手を、俺の手から引き離そうとした。子供の指先が激しく俺の手の平に食い込んだ。

信じられない強さで、俺の手にしがみついた。一瞬、何が起きようとしているのか、俺は状況判断に迷った。マミと云う子供が俺と離れたくない理由が判らなかった。

母親と二人だけになるのを嫌っている様子もなかった。特に子供の身体を見る限り、虐待のような外傷も見当たらなかった。

「さぁ、マミ、オジサンの手を離しなさい」女は強く子供に言い放つと、力づくで手を引き離そうとした。その時、マミと云う子供の激しい叫びが交差点に響き渡った。当然、交差点で信号待ちをしている人々の視線が一斉に、俄か家族の三人に注がれた。

最悪な事態だ。知り合いから目撃されるかもしれない。俺は冗談抜きに、誘拐犯に仕立てられてしまう恐怖を感じた。

「ヨシ、マミちゃんわかったよ、オジサンがおんぶしてあげる」俺は咄嗟にマミと云う子供への懐柔に出た。

「さぁ行きましょう、家までつきあいますよ」俺は女に目配せをして、道案内を頼んだ。

「ご迷惑でしょう、家までなんて」

「今の状況の方がもっと困るよ。まぁ家の近くまで行く間に寝るんじゃないかな。どっちの方向ですか」俺は冗談っぽい口調で、女に道案内をするように促した。

「すみません、本当にご迷惑かけてしまって…」

「もう気にしなくて良いですよ。お互い、危機を乗り越える方が先決だしね」

俺がマミという子を背負い、女がその二人に寄り添って歩く。余程接近して見ない限り、仲の良い家族三人の散歩の姿だ。俺の背中でしばらく「パパ、パパ」と耳元で煩かったが、案の定、女の子は深い眠りに入っていた。

……それにしても、何故この子は俺のことを“パパ”と呼ぶのだろう。現実のパパを知っていたら、俺をパパだと勘違いするのは奇妙だ。パパと見知らぬ男との区別がつかない程幼いわけでもないのに……

余計な詮索だとは理解しつつも、先程垣間見た女の白い柔肌と重なり合って、どんどん妄想はあらぬ方向へ移行していた。

女の子の高めの体温は容赦なく俺を包み込み、背中に汗を滲ませた。
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結衣との関係 1章-2


第1章-2

マミと云う子供の手を洗わせている時、西に傾いた陽ざしが、女の下半身を透けさせた。少し太めな腿のシルエットを俺は垣間見たが、ただそれだけの事だった。二の腕なども太めだろうか、と目ざとく視線を走らせた時、女が季節外れの長袖を着ている事に気づいた。案外人間の目撃能力などとは、このようなもので、先程言葉を交わした女の長袖さえ気づかない程度のものだった。どうして長袖なのだ、紫外線対策だろうか等と考えたが、それは一時のことだった。

俺は水場から少し離れた芝生コーナーでひと眠りしたい気分だった。ただ、マミと云う子供の爺様の素振りをしてしまった都合上、“それじゃあ”と声を掛けて別々に行動する不自然さを憶えた。女もそれを感じていたのか、俺に寄り添うような態勢で、水場を離れようとしていた。

「しばらく一緒にいた方がいいみたいだね」俺は笑いながら、女に声をかけた。

「そのようです、アノ人達まだ睨みつけているみたい」女は怖がっているというよりも、俺の咄嗟の演技に気づき、一緒に愉しもうとする気配があった。

「少し先の芝生で寝転びましょう、そのうちに彼女たちも飽きますよ」

「ですね、ご迷惑でなかったら…」

「大丈夫ですよ、いずれにしても寝転ぶつもりでしたから」

「それじゃあ私たちも寝転びます、マミちゃんもう一度芝生だよ」女は子供に語りかけながら、なぜか楽しそうな声を出していた。

……なんとも奇妙な気分だな。ことの成り行きとはいえ、見知らぬ女と、その子供と芝生で寝転ぶか……

俺は委細構わず、芝生に寝転んだ。本当に身体を伸ばしたかった俺の身体は声こそ出さなかったが、満足感に満ちていた。数分間は記憶があったが、いつの間にか居眠りをしていたようだ。何か夢まで見たようだが、何の夢だったか覚えてはいなかった。ほんの僅かなまどろみだったのだろう、女と子供は俺に異常接近して、芝生の間から顔を出すクローバーを摘んでいた。

子供のまだ乳臭さと、女のパフュームらしき匂いが鼻孔をくすぐった。女と子供のニオイ包まれ、俺の男は僅かに覚醒していた。横座りした女の膝頭が時々割れ、白く肉付きのいい太腿が垣間見えた。性的に、俺の好みの太腿ではなかったが、観賞するぶんには肉付きが良い方が好ましいものだ。

「気持よさそうに寝てらしたわ」女が親しげに笑いかけてきた。

「あぁ何か夢まで見ていたらしい。まさか寝言は言わなかったでしょうね」俺は女の太腿の奥が見えそうだと思いながら、必死で目線を遠くに泳がせた。

「まだアノ人達居ますよ」

「そうだね。そろそろ、家に帰る時間ですか」

「いえ、特に急いではいません。ただ、蚊が飛んできているので、マミが刺されるかも…」

「そう、じゃあ僕も公園の出口まで一緒に行きますよ」

「スミマセン、なんか余計な事につき合わせてしまって」

「いやあ、ことの成り行きだからね、こう云うこともあるものです」俺はもう少し横になっていたい気持を払いのけて、女の心配につき合うことにした。

公園の出口に向かって歩き出すと、マミと云う子供が俺の指を掴んだ。突然のことに、俺は一瞬ぎょっとしたがマミと云う子供のなすがままにしておいた。

「マミちゃん、駄目よ、オジサンの手を握っちゃ」

「イヤっ!パパの手だもん」

「構いませんよ、柔らかくて気持が良い。そのままにしておけば良いですよ」

俺は子供の汗ばんだ小さな手のひらの捉われ人となり、強制連行される姿で公園の出口に向かった。ただ、2歳から3歳くらいの子供のパパは絶対に俺より断然若いのに、と訝しさはあった。しかし、あえて女に問いただす問題でもなかった。
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結衣との関係 1章ー1

こんばんは!
終着駅の連載はまだまだ続きますけど、この辺で一服。
小説の師匠、饗庭龍彦氏の原作をもとに鮎川かりんが、
補筆加筆した「結衣との関係」中編の連載をはじめてみます。
終着駅よりも男女の愛のかたちを素直に表現した作品になれば、
と思っています。
これからもご愛読くださるようお願いいたします。
鮎川かりん
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結衣との関係 第一部  鮎川かりん (原作・饗庭龍彦)

第1章-1

新しい女、理紗子と云う人妻を得たからといって、俺の女体狩人生活が特に変わったわけではない。しがない二流ライターの仕事もぽつぽつとこなしていた。ポツポツとしか仕事が来ないのだから、常にポツポツと仕事をすることになる。主に社会政治関連が中心なので、世の中が混乱すればするほど仕事が増えると云う因果な商売だった。

人の不幸で飯を食う職業。医者に、弁護士に、坊主が通り相場だ。しかし、その他にも多くの人種が、他人の不幸によって飯を食っている。ライターなんて職業も、その範疇だ。マルチ商法に引っかかった不幸な人々リストで飯を食うやつもいる。社会面の事件記者やルポライターも同様だ。警察官、消防士、自衛官も、かなりの範囲で他人の不幸で飯を食っている。社会保障制度に携わる政治家、役人、彼らも広義において不幸を餌に飯を食べている。つまりは、人間社会では不幸と云うものが日常茶飯事な出来事に過ぎないと云うことなのだろう。

仕事の時は、半日以上椅子に腰かけパソコンに向かい、コーヒーと煙草に囲まれる生活なのだから、健康に良いわけがない。時間が空けば、女とホテルにしけ込んで、セックス三昧なのだから、太陽に当たる必然性すらなくなっていた。かかりつけの医者からは、“臀部筋が相当弱っている、太陽に当たること、そして歩くことを心掛けろ”と注意を受けていた。まさか医者に向かって“セックスは臀部筋を鍛えないのか”と聞くわけにもいかず、余裕がある時は嫌々近所の公園を三周程度歩くことにしている。当然、晴れている日に歩くので、それなりに太陽にも当たるので、一石二鳥だった。

そんな或る日、俺は結衣と云う女に出遭った。東日本大震災後と福島原発事故発生以来、立て続けに仕事が舞い込み、一カ月半ぶりの臀部筋鍛錬の公園だった。既に初夏の陽ざしが公園に注ぎ、動かずに日陰にいると肌寒さが残っていたが、三周走り切った俺はうっすらと汗をかいていた。
いつもの水飲み場で顔を洗い、蛇口から水をがぶ飲みしようと近づいた時、水場は近所のママ軍団に占領されていた。

……糞!なんてことだ、いまいましい……

しかし、世の中早いもの順程度の常識は知っているので、少し離れた所からママ軍団が去るのを待った。五分、十分と待ってみたが、彼女らと、その子供たち軍団は、その場を立ち去る気配すらなかった。距離を半分に縮めて、彼女らに俺の存在を知って貰おうとしたが無駄だった。あきらめて、他の水場に行こうかと思った時だった。

「いつもあの人達、水飲み場を占領しているの」突然、後ろから声が聞こえた。

ふり返ってみると、三十前後の女が佇んでいた。その横には二歳ほどの女の子がしゃがみ込んでいた。どうも話の内容から水場占領のママ軍団とは異なる種族のようだった。

「いつも長いのかな?」

「たぶん、日が陰るか、誰かの子供がグズルまで、水遊びさせているの」

「プールみたいなものだね」

「そんな感じ、目の前のマンションの人達みたい」

「そう。それで、いつもアナタは迷惑しているわけだ」

「いつもは、もう少しゆっくり出てくるのだけど、今日はこの子が早くから“コウエン、コウエン”って煩いものだから…」そう言って、女は自分の子供に目線を向けた。

「ほら、マミちゃん、土を触っちゃだめよ。お手てが真っ黒でしょう」女は怒ると云うわけでも、注意すると云う程の気力も伝わらない気だるい声音で話した。

「ついてきて下さい、手を洗わせると良いですよ。僕も水が飲みたいしね」俺は、女の言葉に勇気を貰い、そこにママ軍団が居ることを無視するような勢いで水場に向かった。ふり返らなかったが、その女とマミと云う子供はついてきている気配だった。

「ちょいと失礼」俺は有無を言わさぬ強い視線を送り“どけろ!”と心で叫んだ。ママ軍団が突然の闖入者にたじろぎ、あっけにとられている間に蛇口を占領し、水を勢いよく出した。

「マミちゃん、先に手を洗いなさい」俺はマミという子供の祖父さんのような振舞いで、女の行動を促した。

女は俺の意図を嗅ぎ取ったのかどうか判らなかったが、その言葉には従った。ママ軍団は一歩水場から退き、遠巻きに逆襲のチャンスを狙っている視線を送っていた。委細構わず、今度は俺がガブガブと水を飲んだ。女たちの百倍無神経なオッサンを演じる事で、ママ軍団の逆襲の芽を摘み取った。

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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人妻のからだ 』(中編)

終着駅 』(長編連載中)

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