第1章-4「どの辺ですか」俺は女に何気に尋ねた。
「重いでしょう、すみません。もうすぐですけど、替わりましょうか」
「いや~、替わらない方が利巧ですよ。半端に目覚められても困るからね」俺は笑いながら答えた。
事実、また大騒ぎされたら困ると云う気持と幾分の冒険心が頭をもたげていた。俺は俄か家族がいつの間にか本物の家族になってしまうような妄想を片隅に抱えて、女の道案内に従った。
「あそこのボロ屋です」と女が指差した先には一戸建ての家があるだけだった。俺のイメージがひとつ壊された。賃貸のマンションかアパートに住んでいると思い込んだ典型的核家族のイメージまでが壊れかけていた。
「ほう立派な一軒家ですね」俺は小ぶりだが建売ではない塀に囲まれた一軒家の玄関に佇んだ。
「本当にご迷惑おかけしました。いま降ろしますので…」女がすっかり寝込んでしまった子供を、俺の背中から降ろした。
「あら大変、背中が汗でびっしょり。どうしましょう」女は子供を抱えながら、泣きそうな表情を浮かべた。
「歩いてるうちに乾くでしょう」俺はどうしようもない気持の悪さを背中に感じながらも、玄関先から踵を返す覚悟を決めていた。
「それじゃ、チョット貴重な体験をさせて貰いました、ありがとう」俺は女が何らかの提案をしてくることを僅かに期待したが、意味もなく佇む不自然さに耐えられず踵を返した。
「やっぱり駄目です、汗を流さないと!」女が俺の背中に向かって強い口調で声をかけた。
「えっ?」
「このままサヨナラは気がひけます。申し訳ない気持が残って駄目です」俺は女の言葉を理解するために、ひと間の間隔があった。
「そう言われても、まさかアナタの家でシャワーを浴びるわけにはいかないでしょう」俺はふり返って、女に語りかけた。
「そうです、そうしてください。誰もいませんから、シャワー使ってください」
……おいおい、ありえないだろう。万が一、旦那が早引けでもして帰宅したらどうなるというんだ。間男に間違われるのがオチだろう。間男のようなことをしたのなら覚悟も出来るが、シャワーだけで間男は、あまりにも悲しい……
「いや~、ご主人に悪いから、やめておきましょう。貴女ともっと話がしたい誘惑はありますけどね」俺は冗談交じりに、女を軽く口説いた。
「主人はいません!」女は俺の思惑を知ってか知らずか、断固旦那が居ない、と宣言した。
「ご主人がいない?でもお嬢さんが…、いや余計な詮索だな」
「良いんです。居たけど、もう居ないんです」女は嫌に明るく答えた。
「ほう、追い出したんですか」俺も気軽に言葉を返した。
「ハイ、追い出しました。マミが1歳になる前に…。兎に角、お入りください、汚していますけど」女は子供を抱えて、玄関のカギを開け、俺を招き入れた。
つづく
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