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第148章
「お兄さん達の商売は順調そうなの?」
「そうみたいね。一週間くらい前に、当座の生活費だと言って三百万渡されたから」
「三百万か、それは豪勢だね」
「そうよ、何年ぶりかな、兄達からお金貰ったのは……」
「そんなに長く食べさせていたわけか」
「まぁ食費以外は、自前だったから、大金が必要だったわけでもないしね……」
「それにしても、どうして……」
「そうよね。どうして、そんなに金回りが良くなったのか、そういう疑問よね」
「そう。まぁ俺が考える問題じゃないけれど……」
「そうね、おそらく、何かがキッカケで、仕事が回るようになったのだと思うの。糞づまっていた状況から抜け出せたような感じかな……」
「その何かってのは、例の敦美さんの旦那さんが持っていた、問題のノートってことなのかな」
「さあ、どうかしら。色々と悪事に手を染めて生きてきた人たちだから、チャンスを手にしたら、殺人以外なら、何でもするだろうから、想像はしないことにしてるの。幾ら考えても、仮に、状況が把握できても、家族の、そういう部分をとめる力は、私にはないから……」
「流れに逆らわないってことか……」
「だって、部外者でいる以外、私には、身を守る術はなのだから。私、そろそろ行くね」
寿美は、俺の反応を待つことなく、部屋を出ていった。
寿美の家族が、俺が送りつけた“片山ノート”の情報を活用して、大々的に、商売を開始したことは確認出来た。
ということは、そう遠くない時点で、彼らは逮捕されるに違いなかった。
寿美の家族が逮捕されても、何の問題もなかった。ただ、“片山ノート”のコピーが押収されることは、あまり好ましくなかった。
物証の押収は、思いもしない証拠が見つかるリスクがあった。
充分に注意したつもりだが、DNAを中心とする科学捜査の水準は向上の一途で、俺の関与が、炙り出されかねない杞憂があった。
無論、関与が炙り出されても、犯罪には無関係なのだから、警察の厄介になることはなかった。
しかし、内閣情報調査室(内調)やCIAは、犯罪性の有無に関わらず動く組織なのだから、安心は出来ない。
権力にとって不都合な事実や人物が、この世から抹殺されている事実は、現実に起きているわけで、無視するわけにはいかなかった。
現に、上野は犯罪者でもないのに、あっさりと消されているのだから、用心に越したことはない。
ただ、内調やCIAに対して用心するということは、自分の消息を消し去ることで、到底俺には出来ない事柄だった。
車で轢き殺される。30万程度で雇われた殺し屋に刺されるかもしれない。駅のホームから突き落とされる場合もある。車のブレーキが壊されることもある。レストランのサラダに毒薬が盛られるかもしれない。家に放火して、情報の隠ぺいを企てるかもしれない。拉致監禁の末に、堂々消される可能性もあった。
そういう意味では、上野の死は、俺の身にも、危険が迫っていることを暗示していた。
つづく