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第151章
「実は、上野の原稿を頼りに後追いの取材を試みているのですが、どうも公安関係者の影が見え隠れしてきたんです。上野の原稿が公安絡みとなると、社内的には、腰を引く輩がウジャウジャいましてね、原稿の主が亡くなったことだし、没にした方が良いだろうと云う雰囲気でしてね、私も迷っている最中なんですよ」
「しかし、この原稿を読む限り、公安が動くと云うのは解せませんね。組織犯罪の部署が取り扱うのでは」
「そこです。たしかに、上野のこの原稿から推察する限り、組織犯罪5課が動くべきで、公安事犯とは言えないわけです。ですから、上野は、この原稿を書き上げた後で、公安が動くようなネタ元に辿りついてしまったと考えられるわけです」
「公安と云うことになると、内調絡みですから、CIAや暴力団も絡んできますね。であれば、上野さんがお台場の海に浮かんでも不思議ではない。そういうことになるでしょうね」
次第に、二人の声はトーンを下げてゆき、漸く互いの言葉が聞き取れるレベルになった。
「大谷さん、まだ時間があるようでしたら、車の中で話しましょうか」
「一時間くらいなら」大谷が大仰に腕時計を目を細めて見た。
二人の姿は、俺の車の中にあった。
「やれやれ、厄介なネタですね」
「今になると、上野さんに渡さなければ良かったと後悔しているんですよ」
「いや、それはありませんよ。我々は、その流されてくるネタの真偽を確かめて、記事を書いているわけですから、ネタ元に責任を押しつけたら、もう、週刊誌の記者などは辞めるべきですから……」
「あの、上野さんが、“Kノート”と称するデータは、出処から類推すると、ある種の商品を販売する顧客データだった可能性があったわけです。僕は、或る筋から、偶然ですが、そのデータを欲しがっている人々の情報を得ていたわけです。その求めている集団の日々の動きから、覚醒剤に関わるものだと推理しましたけど、そのことは、僕には無関係でしたから、Kノートなるものに興味はなかったのです」
「探している側が胡散臭かったので、その情報の価値を知っていた」
「そう、顧客データなのだろうと……」
「そして、偶然にも、そのデータを、饗庭さんは拾った」
「まあ、拾ったと云うか、見つけた」
「しかし、それだけのことなら、それ程、慎重に扱うデータとは思えませんけど……」
「そう、それだけのものであれば、僕には、何の価値もないから、ゴミ箱行きだったわけです……」
「しかし、そのデータの中に、価値のあるものを見つけてしまった……」
「価値ね。一定の人物たちにとっては価値のあるデータなのだろうと想像は出来たな。俗にいうところの金の生る木なのだろうと……」
「でも貴方は、そのデータを上野に渡した」
「そう、金の生る木にはならないけど、週刊誌ネタには充分なものかとね」
「敢えてお聞きしますけど、金にはならないが、週刊誌のネタになると判断した理由は……」
「データの中に、この人物に見覚えがあったからかな……。ところで、そのデータは警察に押収されたのですか」
「いや、運よく、私のロッカーに保管されていたので、セーフでした」
「じゃあ、そこから先は、僕の知識は不要でしょう」
大谷は、何かを言いそびれているようだったが、あまり聞かない方が良さそうな話のようなので、エンジンを掛けた。
つづく