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第150章
「何故、上野は、A氏と書かなかったのか。そこですよね」
「何らかの意味で、かなりリスキーな記事かもしれないと、直感的に感じたかもしれませんね」
「初稿の時点からリスキーな記事だったと云うことは、既に、書いている時点から、危険を知らせる、何かが身辺に及んでいたことも考えられますね」
「それで、ネタ元の身を案じて、Y氏にした可能性はありますけど……、その辺の癖は、大谷さんの方が、よくご存じでしょう」
「そうですね。上野は、それほど気を回せるタイプじゃなかった印象があります。饗庭さんに、何かシンパシーを感じていたのかもしれません。彼が入社した頃は、当週刊誌のナンバーワンの書き手が饗庭さんだったことが影響しているのかもしれないのですが……」
「たしかに、A氏となれば、私がネタ元だと、社内に知れ渡るに違いないと、彼が気遣った可能性はあるでしょうね」
「ニュースソースをぶっちゃけて聞いてしまうのですが、饗庭さんが、Kノートを入手した経緯に違法性はありませんか」
「そうですね。ないと言えば嘘になるし、あると言えば、大袈裟すぎて、別件逮捕になるでしょう。まぁ、無主物を拾って届け出なかった、そんな程度のものです。仮に、あきらかに金目のものを拾って届けなければ犯罪ですが、誰のものか、何が入っているか判らないSDカードを拾っただけですから、ほぼ違法性はないでしょう」
「早い話、ゴミ箱に捨てても、何でもないSDカードってことですね。ただ、偶然貴方は、そのSDカードに、何らかの秘密なデータが入っているかもしれないと、感を働かせた」
「まぁ、そういう見立てで良いでしょう。そのSDカードに見覚えの名前があったので、もしかすると、何らかの記事の参考になるかと思って、警察ではなく、上野さんに渡した、そういうことです」
「つまり、饗庭さんは、そのSDカードが何であったか知らなかったわけですね」
「いや、亡くなった片山さんが、麻薬犯罪に手を染めていた情報は持っていましたから、その方面のデータではないかと想像はしましたよ。でも、そのデータが麻薬犯罪に絡むデータだとは、上野さんには伝えていません」
俺は、ここで嘘をついた。
ここで嘘をつかないと、片山敦美の関係も話す羽目になるわけで、話が連鎖的になり、寿美家族に行きつき、寿美まで巻き込む話になってしまうことを怖れた。
このような嘘は、事件を追っていく場合、往往にして出遭うもので、大筋においては、大差ないのだ。
ただ、少なくとも、敦美は、多くの事情から、守らなければならない存在だったからに過ぎなかった。
つづく