上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第138章
片山のマイクロSDカードのデータを偶然に入手した俺の妄想は膨らんだが、恐喝と云う行動に出るほど差し迫った境遇にいない俺には、どこか絵空事にも思えていた。
本来であれば、もう少し考えがまとまってから事を運びたいところだが、警察や内調が動いているとなると、彼らの先を行かなければ、意味はなかった。
先ずは、上野と兄貴の為のデータをプリントアウトした。
無論、片山がつけた印は消しておいたが、彼らも専門家なのだから、データの意味あいは、直ぐに判るだろう。
そして、そこに記されている人物の素性を知り、それなりの対応をすれば良い。その件に、俺が関与する必要はなかった。
あくまで、彼らの勝手だ。
もしかすると、上野は紙データであることに疑問を持つかもしれなかった。しかし、口には出さないだろう。情報元を大切にするからこそジャーナリストなのだから。
上野に電話を入れた。
「片山のデータの一部が見つかったよ」
「そう、紙だから、元データは別にあるに違いないけど、その一部なのはたしかだよ」
「いや、記事は書かないよ。コラムニストだけで手いっぱいだからね、君の自由にすれば良い」
「あぁ明日、“静”で午後3時ということで…、あぁそれから、この話に、俺を登場させないことだけは約束して貰うよ」
上野は、特集が組めたら、些少だが情報料を会社から出させると言ったが断った。わずかな金を貰って、渦中の人物になる危険の方が、よほど面倒だった。
兄貴には郵送を選んだ。
「ひょんなことから入手したデータだからね、使うか使わないかは、そっちで考えてよ」
「いや、警察も内調も動いているはずの事件の核心資料だからさ、貴重ではある筈だよ」
「まぁ、あくまで覚醒剤の顧客リストだから、それ自体は、売人の顧客リストに過ぎないわけだけど、その顧客の中に、重要人物が紛れている、或いは、そう言う人物の関係者が紛れていれば、それはそれなりのデータだよ」
「そう、ざっと見た限り、4,5人は著名人の息子の名前があったね」
「内調が、なぜ動くかって、それは俺には判らないけど、北朝鮮ルートなのか、それとも、政治家とかの関連があるからじゃないのかな」
「使わないよ。俺は、もう週刊誌屋は辞めたんだから、興味はないよ。ただ、たしかなデータなのは保証するよ。」
「匿名で送るからさ、その通りで処理してよ。」
「勿論、必要ないよ。謝礼など貰うために、領収書切るのはご免だからね」
兄貴あての封書も準備できた。
受け取った側は、明日から裏取りで多忙な日々が来るだろうが、その波及がどうなるかは、後々の愉しみだった。
つづく