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第139章
寿美に渡すデータのことで迷っていた。
果たして、寿美の家族たちは、あの情報を覚醒剤の販売ルートとしてだけ使うかどうかだった。
家族の中に目端の利く人間がいたら、リストの中に重要な人物がいたら、販路以外の目的に使う可能性はあった。
覚醒剤の販売による利益が、どの程度になるか別にして、恐喝で、1千万とか3千万を手にする方が効率的と考えないとは限らないわけなのだから。
無論、購買者の人間に注意を払うとは限らないが、そのリストがある以上、そこに載っている人物を検索する程度の知恵はあると考えた方が良い。
寿美の家族が恐喝を犯した場合、リストが押収され、そのリストの入手先を追及される可能性はある。そのような場合、寿美の家族が、寿美の名を出すのは確実で、その先には俺がいることになる。
これは拙い。
ウッカリすると、覚醒剤販売の共犯の疑いさえかけられてしまう。
ということは、寿美に協力することは、犯罪への協力者になるのだから、共犯を疑われ、利益の授受の疑いが掛けられるのは避けられないと云うことだった。
寿美に直接、片山のデータは渡せなかった。
まさか、敦美に、その役を押しつけるのは、人間として最悪な行為になるだろう。
このままでは、寿美にデータを渡せないと云うことだった。
しかし、片山のデータを入手することが、寿美家族にとって死活問題だとすると、再び、敦美に矛先が向けられるのは確実だった。
寿美も、敦美も無関係にデータを、寿美の家族らに渡す方法はないのか。
俺は、デッドロックに立ちどまり、探偵や刑事のような顔つきで考え込んだ。
しばらくして、考える行為が無駄だったことに気づいた。単に、寿美の焼き肉屋に郵送してしまえば良いことだった。
送り主が判らないことよりも、片山ノートのデータが入手したことで、彼らは、それで充分な筈だった。
無論、そのデータが本物かどうかを疑う程度の猜疑心はあるだろうが、本物だと確認できた時点で、それらの猜疑心は簡単に払拭するに違いなかった。
ゴム手袋の中が汗で気持ち悪かったが、無事、寿美の焼肉屋宛ての封書が出来上がった。
郵便切手は、必要以上に多めに貼り付け、行方知らずの郵便物にならないよう気を配った。
新宿郵便局まで車を飛ばし、道路わきのポストに投函すれば終わりだと思った。
警察ではないのだから、監視カメラに映っていても、彼らにはチェックするすべはない筈だった。
最近の犯罪の検挙には、その多くが監視カメラによって追跡が行われている。その意味では、監視カメラのない郵便ポストが最適だったが、そこまで気を回す気分にはなれなかった。
これで無事、寿美の家族に片山のデータを入手される。彼らが、そのデータで、どんな商売をしようと、俺には関係ない。仮に、そのデータを基に恐喝を働いても、特に、俺に関係はなかった。
つづく