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第129章
マイクロメモリーカードの中身は“片山ノート”そのものだった。
単に、名前と携帯番号が羅列されているエクセルデータなので、そこに記されている個人名が、本名か偽名かも判らないものだった。
唯一の有力な手掛かりは、備考欄に、×、▽、○、◎が記され、何らかの分類を示唆している点だった。
おそらく、リストアップされている名前は、その多くは偽名と考えて良いだろう。覚醒剤を購入しようという人間が、本名を名乗ることなどあり得なかった。
携帯の番号には、一定の信ぴょう性はあった。
少なくとも、リストアップした時点では、その番号で、購入者と連絡がついたことを意味する。無論、現在においても、その番号が有効かどうかは判らないのだが、或る時点においては有効だったと云うことだ。
後は、購入者のリスク管理の問題で、頻繁に契約会社を変え、尚且つ、携帯番号を変える方法。もっと慎重であれば、プリペイド携帯を利用することも考えられた。
しかし、必ずしも顧客が、注意深いとは考えられない。案外、覚せい剤を購入するような人々は、常識人の注意力から逸脱している事が多いので、相当数は、有効な携帯番号である可能性もあった。
売人の元締めである片山が、このようなデータを携帯以外にも残しているとは、当の本人たちは考えてもいない可能性もあった。
そうなると……、俺の頭に、多くの人材の顔が浮かんだが、浮かぶ傍から、消去され、週刊誌の記者をやっている上野の顔だけが、居残った。
上野を使うしかないだろう……。兄貴を使うのは賢明ではなかった。
兄を使うと云うことは、猫に鰹節を差し出すようなもので、横からネタを攫われそうだった。
現役の上野を使う方が、フットワークも好いし、懐柔する手立ても多いので、上野の協力を仰ぐのが手っ取り早かった。
上野に渡すデータは名前と電話番号だけにするべきだった。備考欄に、×、▽、○、◎の分類は、俺が唯一持っておくべきデータだった。
この備考欄の×、▽、○、◎の分類は、×や▽は、ザコな顧客であり、あまり重要視する必要がないと、片山が判断しているのだから、除外して良いことになる。
本来であれば、そのことを上野に伝えるのが誠実さだったが、俺の本能は、それを拒否していた。
出来れば、◎の顧客に関しては、自分で捜査することも考えたが、敦美と云う有力な金づるを見つけてしまった俺は、地道な努力に堪えられる精神力を失っていた。
エクセルのデータを変更するのに手間取ったが、どうにか上野に渡せるデータに仕上げた。
顧客数は800人達していたので、この携帯番号を確認するだけでも、容易な話ではなかった。
無論、直に電話を掛けるなど御法度なわけで、携帯電話会社のコネを使うしかないのは判りきっていた。
つづく