第66章寿美は何気な話をしている素振りをしていたが、どこか必要以上の興味を押し隠している感じに思えた。
だからといって、いま特に、寿美への追求に時間を割くつもりはなかった。
「片山亮介が殺されたって事件のことよね?」寿美は、俺が無言でいることを咎めるように話しを繋いだ。
「知り合いなのかな?」
「そう、私を捨てたトンデモナイ男よ」
「片山亮介ってのが、君の昔の破廉恥な奴だった。そういうことか……」
「そういうこと」寿美は他人事のような話し方をした。
「奇遇な話だね。その殺された男の奥さんが、俺の知り合いだなんて……」
「ほんと、心臓が飛び出るほどびっくりしたわよ」
「なんてことだ。知らないこととはいってもね、殺された男の、昔の恋人と俺はセックスをしていた、そういうことだよね」
「そう、その上、その奥さんとあなたは関係があるのだから、話は複雑よ」
たしかに、そういうことになる。
まさか罠ではないだろうが、ふたりの女を巡って、俺が片山亮介と揉めていた等と誰かが作り話をすれば、重要参考人に格上げされても不思議ではなかった。
「心配になってきたでしょう。もしかして、犯人は、貴方なのかもね?」言葉を失っている俺に、寿美は揶揄うように言葉をかけてきた。
寿美は勝手に、俺と片山亮介の女房である女と、男女の関係だと決めつけた話し方をしたが、敦美と俺の関係を知っている筈がないのに奇妙に思えたが、あえて聞き流すことにした。
片山亮介が殺された時間は何時ころだったのだろうか。たしかニュースでは、そこまでは言っていなかった。
そうか、敦美の話を聞けば、殺された時間のことも判るに違いなかった。
今すぐにでもホテルに飛んで行きたい気分だったが、慌てている素振りを寿美に知られるのは、理由はないが賢明ではないと感じていた。
「あの男を殺したい奴は沢山いるはずよ。警察も容疑者だらけで、目まいを起こすに違いないわよ。その内、死んでも構わない男が殺された事件の捜査が嫌になるんじゃないのかしら、フフフ……」
「俺は、片山亮介って人を知らないのだけど、そんなに酷い男だったということかな?」
「そうね、優しい顔して、暴走族のリーダーだったからね。まあ、だから私はつきあっていたのだけど……」
「俺は彼の奥さんから多少のことは聞かされていたけど、相当の奴のようだね……」
「まあ、いずれ私たちの焼肉屋にも警察が聞き込みに来るに違いないわ。兄たちともつき合いがあるからね、ひと騒動だと思うわ」
「人ごとのような話し方だけど、寿美さんは大丈夫なの?」
「大丈夫よ。私は、父と兄の悪事の犠牲者だから……、でも家族なのよ。その辺が、私の人生の重い部分よね。でも、そういうのって運命でしょう、自分ではどうにもならないことなの……」
寿美は、重い問題を口にしたが、いま、俺はその問題に関与している余裕はなかった。
気づかない鈍感な男を演じるのは辛かったが、今は、敦美の問題に集中すべきだった。
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