第58章寿美は間髪を入れず応答した。さも、誰かの電話を待っていたのではないかと思うほど早かった。
まさか、俺からの電話が来ることを待っていたわけではないのだろうが、機嫌のいい声音だった。
先日の1万円を返したい旨を伝えると、あっさり、先日の旅籠で会いましょうと提案してきた。
寿美を誘う算段を色々想定していたが、あっさりと寿美によって打ち砕かれた。2戦2敗した気分で電話を切った。
どこか吸いとり紙のような寿美と云う女に怖れを感じたが、逃げ出す気はなかった。いずれの日にか、寿美を屈服させる情景を描いてみたが、具体的な映像は浮かんでこなかった。
寿美が魔性の女であるかどうか、今日たしかめられるとは思わなかったが、少なくとも、男女の関係にはなれそうな気がした。
何故と聞かれても、斯く斯く然々という理由はない。ただ、二度目の逢瀬を迎えて、男と女にならなかった事がないからと云う、経験則によるものだった。
敦美の身に何かが起きたことは気になったが、警察からの電話で動いた状況から推測する限り、敦美の身が危険にさらされている状況ではないのだと思っていた。
いま、敦美の為に出来ることは、彼女の携帯を持ち歩き、連絡を待つことくらいだった。そして、その通りにすることで、免罪符は得られた。
今日中に連絡が入るだろうが、寿美と情交中に鳴らないことを祈るのみだった。
案の定、寿美は風呂を浴び、涼しげな顔でビールグラスに口をつけていた。
目は妖艶だったが、敢えて合せないようにして、残ったグラスのビールを飲み干した。
「汗を流していらっしゃったら」
寿美は、浴衣とタオルセットを俺に手渡し、今日は布団の中で、俺の身体をたしかめるとでも言いたそうに促した。
「結構暑くなってきたね。少し歩くと汗ばんでくるからね」俺は素直に、手渡されたものを受け取ると、例の総ヒノキの浴室に向かった。
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