第57章敦美からの連絡を待って、俺はベッドに寝ころんでテレビを見ていた。特に観たいものがあったわけではないが、ニュースのワイドショウにチャンネルを合わせていた。
「………亡くなられた片山亮介さん(38歳)は昨日午後から夜にかけて、自宅マンションの一室で死亡していました。現場の状況から、殺害されたものとみて新宿南署は捜査開始しました。金品などを物色した跡がないことから、片山さんが何らかのトラブルに巻き込まれた可能性を視野に捜査する模様と関係者は語っています。次のニュースは上野のパンダのお話です………」
一字一句覚えたわけではないが、新宿で男が殺されたと云うニュースだった。
敦美と関係あると云う確信はなかったが、なぜか、片山亮介と云う男が、敦美の旦那のような予感があった。
家に戻れば、詳しく確認する方法もあるのだが、ホテルの部屋では、敦美からの連絡を待つ以外、為すすべがなかった。
知ったかぶりしたコメンテータが、A首相の心の中を覗いてきたような詳しい解説を加えていた。
しかし、これだけ理路整然風に、妄想を話せるのは、一種の才能であり、一歩間違えれば詐欺師のように思えた。
そうか……、また気づいた。
敦美が、俺の番号を記憶していない限り、俺の携帯に電話を掛けることは不可能だった。おそらく、番号は覚えていないだろう。
ということは、ホテルに電話をしてくる確率が最も高かった。しかし、いつ連絡をしてくるかわからない。してこないこともある電話を待つ気にもなれなかった。
敦美がどれほど間が抜けていても、自分の携帯番号なら覚えているに違いなかった。そう、まさに、その敦美の携帯電話は、俺の手の中だった。
気がついてみると、あまりにも当然のことなのだが、非日常な状況に遭遇すると、人間はうっかり事実関係を見逃すようだ。特別、俺が間抜けなわけではない、そう思うことで、俺は次の行動に出た。
先ほどのニュースと、敦美がいなくなったことに関連があるか、何ひとつ手掛かりはなかったが、新宿在住の片山亮介38歳が敦美の旦那である可能性はかなりの確率だった。
敦美が突然、不自然に姿を消した状況と重ね合わせると、事情聴取、或いは参考人として任意の取り調べを受けている可能性があった。遺体の確認と云うこともあった。
いずれにしても、敦美が自分の携帯に電話を入れることに気づくまでには、相当時間がかかりそうだった。
ダブルのホテルの部屋で、何時ともわからない敦美からの電話を待つのは苦痛だった。
Oホテルを出た俺は、家に帰る気にもなれなかった。不動産屋との約束もキャンセルしたことで、半日の時間が空白になっていた。
こういう空白の時間等と云うものを手に入れたのは神の恵みかもしれないと思いながら、シャネルスーツの女のことを考えていた。
敦美が窮地に立たされているかもしれないにも関わらず、俺は他の女のことを考えていた。
時計の針は12時を過ぎていた。新井寿美にとって、最も暇な時間に違いなかった。
寝起きが悪く、不快な声が返ってきたら、名乗らずに電話を切る積りで、メモにあった携帯の電話を鳴らした。
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