第5章既に30分以上が経っていた。
予想の範囲の出来事だった。おそらく、この流れだと、女は来ない。
これで敦美という女を抹消出来ると、珍しくホッとした時に携帯が鳴った。
「もしもし私、敦美。ごめんなさい、約束してたよね」
”寝とぼけンじゃね~”
怒鳴りたくなる衝動に堪えた。
「してたよ、新宿で待ちぼうけ食ってるよ」
「モウスグ着くの、今京王プラザの横走ってる、モウスグだから、待ってて」
結局、敦美は、それから20分近く経って、俺の前に姿を現した。
「ごめん、ごめんね」
背の高い女肉づきの良い女が突然声をかけると抱きついてきた。抱き着かれて、その女が敦美だと、確信で来た。
身構える余裕もなく、2,3歩よろめいたが、どうにか踏みとどまった。
「凄く混んじゃって、もう目の前なのにイライラしちゃって」敦美は、俺の腕にしな垂れかかったまま、捲し立てた。
「行こうよ、ねっ、ねっ」骨ばった手が強引に俺の腕を引っぱった。
・・・何だこの女、売春婦だったのか?冗談じゃねえぞ、金を貰ってヤルことはあっても、払ってヤルなんて真っ平ってもんだ・・・
「おいおい、慌てんなよ、俺、ラブホ代なんて持ってないぜ」
「いいの、いいの、行こう、さあ早く」敦美は、更に凄い力で俺を裏通りに引き込もうとしていた。
初対面の名前も交していない。俺のハンドルネームの確認すら怠っている。
しかし、土曜日の新宿の路上で女と揉み合うのは賢明ではなかった。
すでに、通りすがりの数人が女の甘い声と肉感的な肢体に目を向け、足を止めていた。
車に乗せるのは拙いと、咄嗟に感じた。
無理矢理女の手を振りほどいて逃げ出すことも考えた。
相当に異常な行動なのだから、敵前逃亡のレッテルに甘んじてもよかった。
しかし、俺は逃げる気にもなれなかった。
あきらかに、相当の危険を漂わせている女なのだから、賢明な判断は、”逃げ出せ!”だった。
しかし、初めての女の肉体を知る、味わうと云う誘惑は、理性を押し退ける力を持っていた。
谷崎潤一郎を引き合いに出す必要はないが、谷崎は、雑誌のインタビューで、「女の魅力は、一度で良いと許されたら、すべての女体と行為するだけの価値がある。それが、女体と云うものじゃないのかな」と答えていた。
俺はやることにした。
ただ、女に主導権を渡すつもりはなかった。
以前利用したことのある甲州街道裏に、時代遅れの連れ込み旅籠屋風のホテルがあるのを思い出した。
「わかった、わかった、ホテル代はあるんだよな」
「あるよ、ホラ」女がバックの口を開いた、中に数十枚の1万円札が、無造作に投げ込まれていた。
つづく
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