第436章「えっ! 興味あるな、聞かせてくれる?」
「そうね、盗作されると困るけど、ストーリーってところまでは行っていないの。主たるテーマが確定した。そういう感じなだけだから・・・・・・」
「それで、そのテーマは?」
「このあいだ気がついたんだけど、竹村と再会するまでの人生と、それからの人生に、私なりに見えてきた、起承転結があるわけ。俗っぽい言い方をすると、独身時代の滝沢涼と、結婚し妊娠した竹村涼との間を区切る一本の縦軸。終着駅に着いた列車が、オーバーホールを済ませて、始発の列車に身分を変えようとしている、そう云う感覚が、それがテーマなんだけね・・・・・・」
「ふ~ん、意外とありそうなテーマだけどな。女は三度生まれ変わる、そう云う風に受けとめられる心配のありそうなテーマだな」
「たしかに、結婚を契機にって取られてしまうと、そういう誤解の世界に入っちゃうのか?」
「そう、折角複雑なのに、短絡的に解釈される危険性ね」
「なるほど、結婚が契機と云うのが陳腐になるわけね」
「そう、そう云うこと」
「そうか、そのように受けとめられたら哀しいね。世間一般の陳腐に引き摺り込まれるのは嫌だよね」
「誰もみに来ない舞台くらい哀しくて疲れるものはないからね。私達の劇団も、その洗礼は、過去に充分に受けたから・・・・・・。仮に、私の劇団の興行に入れるつもりなら、その視点は、即刻却下になる。滝沢涼が母さんと同じ人生歩いているように見えちゃうからね」
「プロセスが違っていても無理なものかな?」
「無理だね。第三者の客たちは、そこを理解する前に、没と決めつけ、次の舞台の解説に目を向けてしまうよ。テーマに主観が入っても構わないけど、その主観を観客に、変った視点だと思わせる工夫がないと……」
「つまり、掴みのようなものとか、シチュエーションの工夫とかが足りない、そう云うこと?」
「そうね、先ずは掴みで、興味を持たせないことには、スタート台に立てないということかな?そして、その後から、観る価値があるかとか、色んな、それぞれの人の価値判断で、観てみようかどうか判断するんだと思う。出演者の顔ぶれを見て、誘われる観客もいるけど、そういう観客はあてに出来ないから・・・・・・」
「いずれにしても、掴みが悪くては、シナリオ自体が成立しないようなものだね・・・・・・」
「そう、主人公の女やテーマに、サムシングや意外性がなければ、自分たちと変わりない人間見たって仕方ないよなって思うのは自然だから・・・・・・」
「縦軸の切り口が駄目なんだね。結婚じゃ、あまりにもあまりなわけね・・・・・・」
「そう、内容が違う以前に、見向きもされずに埋もれてしまう。そうだね、たしかに、素直に、姉さんの人生の区切りを表せば、その通りなんだけど・・・・・・、それじゃあね。それ以外に線引き出来るところか・・・・・・。圭との関係が出来た時点。圭が自殺した時点。私との関係が成立した時点。その辺を切り口にすれば、掴みは成り立つけどね、ストーリーには、創作的な出来事を書き足さないと、話が広がらないかな?」
「リアルで描くと、たいしたことない人生なんだね。これだけ波乱万丈だと思っていたけど、有紀のように評論されちゃうと、平々凡々になっちゃうね。幾分、情けない気分になるね・・・・・・」
「充分に波乱万丈なのに、破綻がない。そこが、姉さんの終着駅と始発駅の線引きが魅力的じゃない原因は?」
「かな?だからって、これ以上の波乱は勘弁してよ。ただ、有紀が言う通り、破綻がないよね。でも、実の弟と寝るなんて充分破綻しているんだけど・・・・・・」
「いや、圭との関係が出来、美絵さんとの関係をご和算にさせちゃうとか、同棲しちゃうとか、そう云うパンチが欲しいよね。眼に見える破綻と云うのかな。多くの点で破綻を見せない女が、背徳な女になってゆく。その起爆剤が、目くるめくオーガズムの経験なんてことなら、ちょっと興味が湧くよね」
「そうか、演劇の世界では、主人公はもっと破綻しないと駄目か・・・・・・」
有紀と私は、終着駅と始発駅の線引だけで、長々と語り合ったが、結論も見当たらすに、眠りに就いていた。
つづく
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