第435章「あのさ、今までは触れないようにしていたんだけど、白血病の治療って、経過が様々で、個人差が大きいってとこまで判ったんだけど、姉さんの場合、事前にわかる情報とかないの?」
「そうね、断定的な情報じゃないけど、質のいい方らしいよ。
楽観的な見通しだと、ワンクールの抗がん剤投与で、一定の成果があるだろうって見通しらしい。非常に単純な骨髄性白血病らしいので、予後も期待できる。骨髄移植のような事態は考えにくいだろうってのが、村井先生の現状認識らしいよ。
ただ、有紀が言ったように、個人差もあるし、思いもよらないこともあるだろうから、楽観はしないけど、暗い見通し立てても意味ないからさ」
「すべてが順調に推移するとしても、結構長い間、無菌室とかに入るわけだよね?」
「強い抗がん剤投与している時だけだと思うから、10日前後……。いや、ワンクールで、一定の効果が出たあと、地固め治療とかがあるから、飛び飛びだけど無菌室の住民かもね?」
「そうなんだ。無菌室でも、色々と話とか出来るんだろうか?」
「無菌室でも、マイク越しだけど、会話は可能らしいよ。勿論、私に、話す気力があればのことだけどね・・・・・・」
「そう、最低限の意志の確認は可能ってことね?」
「多分ね」
「どうしたの?有紀が入院するみたいに心配するじゃないの?」
「いや、姉さんと、まったく意思疎通できなくなる状況ってのが、少し怖いんだと思う。それで、何となく、心構えしたいのかな?」
「そうね、ここ数年は、一心同体のような時間を共有していたからね、その気持ちよくわかるよ。多分、入院して治療する方よりも、周りの方が、心配が多いのかもしれない。何せ、こちらはまな板の鯉状態だからね、矢でも鉄砲でも、なんでもござれって、開き直れるけど、有紀は、そう云気分にはなれないものね」
「そうかもしれない。もしもよ、万が一よ、意志の疎通が出来なくなったらどうしようかって、夜中に目を覚ますようになってね・・・・・・」
「ごめんね、アンタにそんな思いさせているなんて、罪作りな病気だよね。当の本人は、時間をかけて覚悟のようなものを、身につけたけど、周りの場合、本人以上に心配の種が浮かぶんだろうね。
考えたら、私は、死んじゃえば、それっきりで、すべてに免責されてしまう。でも、残された方は、そうもいかないから」
「そうなんだよ、ぶっちゃけ悩みを打ち明けるとね。本当はご本人に話す内容じゃないんだけど・・・・・・」
「たしかに。でも、アンタと私の立場が逆転したら、私も、同じように悩んで、アンタと同じように訴えると思うよ。だからね、言わんとしている、ニアンス凄くよくわかるな。面白い現象だけど、人間関係が密になればなる程、一種の杞憂症候群みたいなものが出るんだろうね・・・・・・」
「正直、本当に私が子供の後見人で良いのかとか、真剣に悩んじゃうんだよね。そして、そんな悩みを、当人相手に告白している自分は、どういう神経の持ち主なんだろうって、自己嫌悪にも陥るし・・・・・・」
「それってさ、幾分、有紀のシナリオが混じっている感じもするな。
多分に、我々の中では、私は、死なない前提があって、それを起点にして、物語が作られている。そういう感じだから、私自身にも、当事者意識が少ないんじゃないかな?
相当に物語的だものね。でも、それで良いんだと思うよ。そのように有紀が物語化している主人公二人は、生き続けるに違いないのだから・・・・・・」
「たしかにね、その指摘は当たっているかも?絶対に姉さん死ぬなんて、根っから思っていないからね。
ただ、イフを前提にした場合、私という女に何事が起きるのだろうか、その物語に、創造的魅力を感じているんだと思うの・・・・・・」
「少し、人の命を弄んでいるけど、まあ、許してあげるよ。有紀とは違う側面で、私も、これからのシナリオ描いていたから・・・・・・」
つづく
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