第65章-1
やはり、この問題は、自分一人で考えておかないと、自分自身が窮地に陥るだけだという結論じみたものも持っていた。
有紀の参加は、「鬼塚啓二」と「鬼塚みやこ」(醜いアヒルの子みやこ)が同一人物であり、その人物が滝沢圭であることの推理の手助けにはなるが、主体は、あくまで自分であること、私は認識し直した。
私は、圭がプレゼントしてくれたカシニョールが描いた暗く寂しい女の絵をみながら、何から始めたら良いのだろうかと、実際はぼっとしていた。
今さら、あの手紙を引っ張り出す段階は過ぎている。圭という可愛いだけだと思っていた弟は、想像以上に知らない面を持った男に成長していた。裏の顔があるのはたしかなのだけど、私には、表の顔しか見せていない圭だった。
これからも永遠に、表の顔だけの圭なら、裏の顔を穿り出す(ほじくりだす)必要もないのだけど、断片的に見えてくる圭の裏の顔が、私に牙を剥かない保証もなかった。でも、ただ、私に向かって、その裏の顔で対峙する気は、圭には一切ないと信じることは不可能ではなかった。
高校時代から、私に性的興味を抱いていた圭は、童貞でもないのに、童貞を装って、私との関係に積極的に及んだ。
圭にとっては、もう一人の姉でもある有紀との性的関係にも、消極的ながら参加した事実。あの時の、消極的態度だって、疑えば疑うことも可能だった。
そして、見事に、姉二人と弟の三角関係に馴染み、巧みに性的行為を演じた男。器用にも、その間に、美絵という資産家の娘を嫁にもらい、子供までもうけている男。
知っている事実を並べ立てれば、この圭という弟がどのような男なのか、常識的には自ずと評価が下されるに違いなかった。「そいつは、生まれつき嘘つきの天才で、女を食いものにしている奴だ。碌なもんじゃないね」
私が、仮に第三者であれば、そのジャッジに、一票を投じるだろう。しかし私は、第三者ではなかった。渦中の一番か二番のポジションにいた。ただ、渦中といっても、何かが起きたわけではない。
実害が生じたわけでもないのだから、放っておいても構わない情報が重なっただけ、とも言える。
しかし、単に恋人同士が、僅かな疑念を重ね合わせて、嫉妬しているのとはわけが違う。
不思議だけど、私は美絵さんにも嫉妬心はなかったし、有紀と圭が結び合っているのを目の当たりにしても、嫉妬心はなかった。
竹村が、他の女の子に話しかけるだけで、イライラしたようなものは、圭に関してなかった。おそらく、圭に対しての情緒が、恋という種類とは違うものだからだろうと思う。
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