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終着駅64 「鬼塚啓二」と「鬼塚みやこ」二つの名前


第64章

こういう場合、深く物思いに耽るより、リアルな感覚に戻れる、義父さんの登場は有難かった。

「O157だそうですね」手広くビル経営をしている美絵さんの父親が少し赤い顔をしてやってきた。

「今夜は藍の誕生日だけど、トンデモナイ災難にあっちゃったものですね。今日はお姉さんが来られると云うので、我が家は、明日誕生日をしてやる積りだっただけど、本人がO157じゃあ、こりゃ延期ですね。お姉さんに、留守番役を頼んだからと美絵から連絡が来たものですからね。女房が、アンタがお姉さんと代わりなさいって五月蠅いもんだから、一杯飲みだしたばかりなので、チャリで走ってきたんですよ」

美絵の父親は、貸ビル業経営者というよりも、大学の名誉教授のような風貌をしていたが、話し方は、風貌に似合わず、酷く庶民的だった。

「お義父さまこそ、晩酌を取りやめてまで…」

「いや~、こういう時手伝わんと、美絵がうるさいですからね。薄情者とか、罵詈雑言を私に向けて発しますからね。あの子の、口攻撃は女房仕込みですから、とても歯が立ちません、ハ、ハ、ハ」

美絵の父親は、自慢でもしているように、娘の口の攻撃の凄さを話し出した。

「あら、私からみると、美絵さんは大人しいくらいに見えますけど、そういう面も、おありなんですね」

「いずれ、圭君が、その被害を受け継いでくれる。わたしゃ、圭君に悪いが、正直、肩の荷が下りたんです、ハ、ハ、ハ」

美絵の父親は、よく笑う人だった。ある年齢を越えた男の笑いは、嘘が含まれると、竹村が言っていたっけ。私は、この気さくな美絵の父親は、意外にも曲者な印象を持った。

「そうですか。まだ弟が、美絵さんの攻撃に遭った話は聞かされていませんけど、これからかしら」

「私の予感では、藍が小学校に入るころから酷くなると思うんですな。女房が、そうでしたから。いやまぁ、お姉さんに話しても意味ありませんね。圭君に、その対処法などを伝授せにゃなりませんな、ハ、ハ、ハ」義父さんは、また笑った。

私は、なんとなく身の置き場に苦しんでいた。二人が帰宅するまで、義父さんと同じ空間に居るのは、到底耐えられそうもなかった。私は、圭のPCで目にした「鬼塚啓二」について、ひとりで考える時間が欲しかった。

圭のPCがスリープになっていたのは、偶然なのだろうか、それとも、私に「鬼塚啓二」という名を目撃させるためだったのか、そういう色んなことを一人で考えたかった。

「あら、もうこんな時間なのね」私は、リビングの置時計に目をやりながら、わざとらしく独りつぶやいた。

「いや~お手数かけちゃいましたね。留守番は、ちゃんと私がしておきますので、お姉さんはご自由に。どうせ、彼らが戻ってきても、ざわざわするだけでしょう。誕生日どころじゃないだろうから」

「そうですね。義父様に、お任せてしまおうかしら」

そうして、私は圭の新居から解放され、通りがけのタクシーに乗り込んだ。ここからなら神楽坂まで3000円くらいだろうと思った。考えたいと思うと、地下鉄の乗り換えは煩わしかった。

姪の藍が生死にかかわる病気と云うのなら、待つべきだったろうけど、そういう病気ではないし、殆ど会話をしたことのない二人が、同じ屋根の下で、無意味な時間を過ごす理由もなかった。

私は、考えようとして乗ったタクシーの中で、何も考えられなかった。ただ車が車の間を縫うように走り、時折高いビルや黄色や赤のネオンが薄暮の新宿の街で瞬く窓の外を、ぼっと眺めていた。

タクシーの中から、有紀にメールを入れておいたが、多忙を極めているだろう彼女から、早々に返事が来るとは思っていなかった。

「鬼塚啓二」と「鬼塚みやこ」この二つの名前が偶然と云うのは無理があった。そこにはDNAのようなものが脈打っていると思うのが自然だった。

この疑問を自分一人で推理し、答えを探すのは、とても危険な感じがした。どんな危険かと聞かれても、勿論、具体的脅威などないのだけれど、ひとりで推理する気力はなかった。

やはり、このような疑問を一緒に解決してくれる資格者は、妹の有紀だと思った。かなり多忙で大切な時期を迎えている有紀だったが、この疑惑を一緒に考えてくれる同志が必要だと、咄嗟に思った。

有紀にとっては、幾分迷惑な問題提起だったが、圭を挟んで、男女の関係になった以上、彼女にも、考える資格があるし、責任も義務もある。私は、そんなふうに考えた。そのような発想が詭弁なことくらい知っていたが、有紀を引き込むしか、手立てはないような気持ちになっていた。

引き込むというより、推理の付添人になって欲しい。そして、その推理が最悪な場合、私が倒れそうになったら、支えて貰いたいと願うのだが、それが自分勝手な望みと云うことも承知していた。

ただ、芸能界と演劇界の二股状態で多忙を極めている有紀に、物理的に時間を作らせることが不可能になることも承知していた。仮に、メールのやり取りが可能だったとしても、メールで話せる問題でもなかった。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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