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第121章
「それで、寿美さんは、心当りを当たってくれるって言ったわけだね」
「そうよ。分るかどうか自信ないけど、一応当たってみてくれるって」
「それで充分だよ。ボールは、あちら側に渡ったってことだからね」
「寿美に聞かれたので、知っている二人の愛人の話しちゃったけど、あの人たちに危害が加わったりしないよね」
俺は、返事をする前に考えた。
「さぁ、どうだろう。三人の愛人の誰かに“片山ノート”が渡されているとして、その誰かは、君も判らないわけでしょう」
「確実にはね。ただ、最近のアイツの私生活から観察する限り、最後の一番新しい愛人の可能性が大きいわ。他とのつき合いはおざなりな感じだったから……」
「でも、愛人だったわけだろう」
「そうね、部屋代とか振り込んでいたようだから、やっぱり愛人ではあったのでしょうけど、信頼とか愛とか、そういう感じはなくなっていたと思うの。だったら、そんなに大切なものなら、家の金庫に入れておくか、愛人に持たせておくかでしょう」
「まぁね。でも、俺だったら、貸金庫に預けるけどね」
「貸金庫ね……。銀行の」
「あぁ1千万単位の預金がれば、貸金庫さえ空いていれば貸してくれるからね」
「そういうこともあるわけね」
「そっちは、確認してみたの」
「まだ、確認していない。生命保険の方は証書があったから、連絡したけど……」
「君は、殺人のあったあの部屋には行ったんだよね」
「行ったことは行ったけど、刑事が大勢いる中で部屋に入ったから、頭パニクっていたから、あまりよく見てないのよね……」
「まぁ、それもそうだ。そんな状態で、物入れを確認するなんて出来ないよな。精々、ざっと見回して終わりだろうからね」
「警察の押収物の中に、“片山ノート”があったなんてことないよね」
「さぁ、どうだろう。片山さんは殺された被害者だからね、その被害者の部屋のものを押収するってのも、本当は変なんだよ」
「変なの?」
「そう、変なんだよ。殺人に使われた凶器とか、飲みかけのグラスとか、そういう物が押収されることはあっても、パソコンとか、その他の書類とか、行きすぎな感じがするよね」
「それってどういうこと」
「そうだね。もしかすると、片山さんは、他の犯罪で捜査対象になっていた可能性は否定できないからね」
「それってのが、“片山ノート”ってこと」
「かもしれない。でも、押収物の中に、“片山ノート”はなかったんだよね」
「うん、なかった」
敦美と俺の間で沈黙の時間が流れた。
つづく