上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第120章
翌日、敦美は俺の話に納得した。
流石に旧知の間柄とはいっても、一度は拉致監禁した男たちに、警戒心があったのは当然だった。いや、警戒心よりも怖さを感じていたに違いなかった。
寿美に、遠回しに、片山の第三の愛人の情報を伝えるのは、敦美の役目になった。
この時点で、敦美は、寿美と俺の関係に疑いは持っていない様子だった。
幾分ホッとすると同時に、心苦しくもあった。またこれから、関係をどこまで隠し通せるものか、ひどく心許ない気分だった。
いずれの日には、俺と寿美の関係も露見することになるのだろうが、その時は俎板の鯉状態になるしかないと、腹は決まっていた。
棚からぼた餅のようにして手に入れた敦美という女だった。おそらく、それを失う時も、予告なしにやってくるような気がした。
たまたま、その女が15億円の資産家で、俺は、その運用を任され、両手に花状態になったわけだ。
考えてみれば、夢のような話で、うたかたの泡と消えても文句の言える立場ではなかったのだから、自分を早々に納得させることは出来て当然だった。
話の筋書きは敦美が考えた。その方が作り話が少なく、単純で分りやすい。
俺が余計なテクニックに走る方が不自然になる可能性があるわけで、敦美らしい調子で、寿美に、なんとなく打ち明ける方が自然だった。
無論、その情報を、寿美が、我々の思惑通りに扱うかどうか、その点は不明だった。
しかし、敦美も俺も、欄外にいるためには、避けて通れない受け身な姿勢だった。
金持ち喧嘩せずとはよく言ったものだが、敦美にも俺にも、“片山ノート”は無用の長物であり、危険物のようなものなのだから、そのように扱うべきものだった。
話のはじまりは、敦美が寿美に片山の愛人について知っていることはないか尋ねることだった。
おそらく、寿美は片山の情報に関して、根本的に知らないフリをするのは判っていた。
寿美が、片山亮介の情報に精通していては都合が悪いわけで、自分は番外地に居る存在だと印象づけるに違いなかった。
ただ、片山亮介の女房であった敦美には、旧知に間柄である寿美に、問わず語りをすることは、不自然ではない。
そして、最近片山が頻繁に会っていた、第三の愛人が、寿美の友人である可能性もあるので、色々知り合いに聞いて貰えないかと云う話をした。
寿美からは、第三の愛人と言うくらいだから、第一、第二の愛人のことは知っているのか聞かれたようだ。
敦美は、知っていると答えたようだ。
つづく