第52章家に向かうタクシーの中から、敦美が望む住まい探しを、知り合いの不動産屋に頼んだ。
この不動産屋に、愛人の家探しを依頼したのは三度目だ。敦美の場合、愛人と云うわけではないが、他人は愛人に違いないと思うのだろう。
相手が、どう思っているか、特別気にはならなかった。何らかの事情で、反目するような事があれば、多少のリスクにはなるが、バレタからといって、家庭騒動は起きるような家ではなかった。
金に余裕のある物件探しは気楽だった。家に辿りついた頃には、仕事部屋のFAXに、10軒近い物件の見取り図や条件概要の資料が届いていた。
家賃15万前後の1LDKは、物件そのものは少ないそうだ。おそらく、一人住まいはワンルームになるし、残りはファミリータイプになるので、その中間のニーズが少ないと云うことだろう。
送られてきた物件は、気を利かせたのだろう、俺の最寄駅から直通で行ける町が選ばれていた。それほど頻繁に行くことはない筈だが、特に文句もなかった。
果たして、頻繁に行かないと云う俺の思惑を、敦美が納得すかどうか、その自信はなかった。考えてみると、敦美に対して、旦那のもとから逃げ出せと言った手前、暫くは面倒見るのが人情と云うものだった。まぁ、他の女との時間を削れば、どうにか都合はつくだろう。
それよりも、と俺は思った。あの新大久保の女の方が気になっていた。寿美(ひさみ?)と云う女の名前から類推すると、朝鮮系の女に使われる名前だった。新井と云う苗字も半島系の人々が好んで使う苗字だった。
新大久保の女がロシア人であろうと、朝鮮人であろうと、蠱惑的であることに変りなかった。敦美には、財産と云う誘惑材料があるが、寿美には、計算できない危険な臭いもする、ポイズンな魅力が備わっていた。
住所録に加えられるであろう二人の新しい女は、出来れば同一ルートに住んでいることが理想だった。車移動であれば、同じ幹線道路沿いだと尚よかった。
つまり、西東京の端にあると云う寿美の焼肉屋と敦美の棲む隠れ屋は、同一の沿線にある方が好都合だった。
新井寿美と云う女は、逢瀬の場所を新大久保方面に望むかもしれなかった。そうなると、西東京と新宿の間で、敦美の住まいを探すのがベストだった。
西武新宿線沿線が有力候補だ。おそらく、西東京と言ったのだから、寿美の焼肉屋は、田無から小平の周辺にあるのだろう。ということは、敦美の部屋が西武新宿線沿いで探せば良いことになる。
取らぬ狸の皮算用かとも思うが、決して当てずっぽうなに思いを巡らしているわけではなかった。
昼下がり、行きずりの男と女が高級連れ込み宿に入り、一緒に風呂に入り、その檜風呂の中で、半ば強制的なかたちでフェラチオを受け、尚且つ射精したと云う事実から推測する限り、連絡をすると云うことは、概ね男女の関係になることを、強く暗示していた。
しかしと思った。敦美は根拠のある関係だが、新井寿美と云う女との関係は根拠は薄弱だった。いや、殆ど男女の関係になる根拠はなかった。掴みどころのない男女関係ほど不安定なものはなかった。不安定なだけなら良いのだが、関係を継続する場合、その相手の心を掴む努力を強いられる。これが、想像以上に難しい。
あのアンバランスな生活環境を持つ、寿美と云う女の気持ちを繋ぎとめる器量が俺に備わっているか、かなり疑問だった。仮に、俺程度の器量で満足する女であれば、敢えて、あらためて五人目、六人目の女にする必要はなかった。
ただ、まだ関係を結んでいない分だけ、実力以上に、寿美はいい女に思えた。
こうして、俺は、相手の女の良いところを見つけては、意志薄弱な心持ちのまま、意志薄弱に関係して、下駄の雪のように、女を抱え込んでしまうのだった。
いずれ、このような生活が、俺の人生に大きな衝撃を与えるのではないだろうかと予感しながらも、その生活習慣を容易に放棄する気にはなれなかった。
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