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終着駅370


第370章

「明日の内に、骨髄検査などこちらの検査は終わらせます。そして、明後日、櫻井先生が胎児の状況や、分娩促進で出産が可能かどうかの検査をします。そこで、一旦検査入院は終わりますので、予定通りの退院で結構です。ただ、検査結果が判り次第、数週間以内に出産や治療の計画を速やかに実行したいのですが、その辺のご予定はいかがですか」

村井先生は、明確なスケジュールを、既に頭の中に描き切ったような口ぶりで話した。

「えぇ、昨日の内に、仕事上の問題はクリアしてありますので、最悪、このまま入院と言われても、大丈夫な状態にはしてありますけど、数日頂いた方が、都合は良いのですけど……」

私は、そのスケジュールを口にすると云うことは、条件的に分娩促進剤の投与と実行が可能だと、判断しているのですね、と聞きたい気持ちだったが、患者が先走って治療方針に口出しをするのは、得策ではないと思った。

「そうでしょうね。それに、この特別室は、余裕がある方でも、リーゾナブルじゃないでしょうから……」櫻井先生がお子さまっぽい笑顔で、冗談交じりに話した。

「そうですね。破産しちゃうかもしれません。出来れば、そのリーゾナブルなお部屋があれば……」

「そりゃそうです。空きが出るかにもよりますけど、出来るだけ一般の個室レベルで手配してみましょう」

「リーゾナブルな個室だと、大変助かります。よろしくお願いします」

「櫻井先生の方に、治療前の早期出産について、ご相談してみたしたが、詳しいことは、未だ判りませんが、可能性はあるそうです。ですから、明後日の産科の方の検査が入ったわけです。現時点では、どちらとも言えない状況だそうです。その辺は、櫻井先生から詳しくお話しますので、お聞きください」

村井先生は、櫻井先生を残して、足早に部屋を出ていった。童顔の櫻井先生は、ベッドの傍にある丸椅子に腰かけて、僅かに窓の方を見ていたが、童顔なりに真面目な顔を私の方に向けて話し始めた。

櫻井先生は、分娩促進剤で早期に出産させることは、私の場合、出産後、治療が待っていると云う事情が事情なので、試みることは出来ます。早期の分娩が、促進剤で可能かどうかは、五分五分です、と説明した。

「あの、その促進剤を打って、出かかっているけど、出てこないような場合には、どう云うことになるのですか?」

「現時点の**クリニックのカルテを参考にお話しておくと、多少母体には過酷ですが、胎児への影響は少ないと思います。まだ、可能かどうかは、明日の検査次第ですが、インターン用に書き留めたノートの一部をコピーしてありますので、ざっと目を通しておいてください。意図的な、早期の促進剤による経膣出産は稀ですので、書いていない問題も生じるかもしれません。その辺は、臨機応変に対応します。ただ、一番は母体の命であり、二番目が胎児ですから、その辺はご了解いただくことになります」

櫻井先生は、顔に似合わず、的確な返事をして、私に、患者に渡すものではなさそうな三枚のペーパーを差し出した。

村井先生も、櫻井先生も、私よりは年上のようだったが、5歳と違わない印象だった。感覚的には、同世代と云う共通の何かを持っている感じで好ましかったし、それなりの信頼が持てる話し方をしていた。

櫻井先生が、患者に、このようなペーパーを、常に渡しているとは思えなので、そうしてくれる何らかの根拠があるのだろうと思ったが、どんな根拠か、聞く必要はないと考えながら、ペーパーに目を通した。

本来、産まれる準備が出来ていない胎児を、人為的に早産させるのだから、相当のリスクが母子双方に存在するのは当然だった。

増して、経膣分娩に固執する私のような患者は、担当医にしてみれば、担当になったことは、災難のように受けとめられているのかもしれなかった。

それにしては、初対面である櫻井先生も、嫌に親切だと訝った。

村井先生が、親身になる経緯は、父親からの紹介という特殊性があるのだから、ある程度は納得出来た。しかし、櫻井先生の場合には、何らの関わりもないのだから、親切すぎるという疑問が残った。

櫻井先生は、常に、このように患者と接する人格の持ち主と云うこともある。常に、患者に納得して貰うことをモットーに、処置に当たる医師だとも言えた。

しかし、まだ会ったこともない妊婦のために、事前にここまで用意してくれるのは、やはり少し変だった。無論、異議申し立てする問題ではないのに、どこかひっかかった。

そんなことを考えながらも、私の目は文字を追いかけていた。櫻井先生のノートだと云う写しは、必ずしも医学上のメモのように、判らないカタカナや英語は見当たらなかった。素人の私にも理解出来る平易な書き方で、カッパ・ブックスを読んでいるようだった。

私は、このメモは、私という患者を特定した上で書かれたものに違いないと思ったが、だからといって、書いてあることに信頼性が欠けているとも思わなかった。

まるで私の不安がわかっている人間が、その不安に応えているように思えた。仮に、何らの情報もなく、櫻井先生が、これを書いたのであれば、彼は作家的でさえあった。

創作力があるから名医だとは限らないのだから、そのことが、私の安心をバックアップすることにはならないが、好感度を上げたのは事実だった。

そして、予期せぬ難産に遭遇して、促進剤で胎児が中途半端な状況で、子宮頚の辺りで窒息死しそうになったらどうするのだろうという疑問に、的確な回答を出していた。

最悪な場合には、最終手段として帝王切開があることを、念を押すように書いていたが、その前に、経膣出産を手助けする、あらゆる手段が、事細かに例示されていた。

いざとなったら、吸引分娩の手法を使う。それでも産まれてこない場合には、鉗子による、強制的な取り出しまで書かれていた。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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