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第142章
だんだん、敦美が退屈な女になっていくのを感じていた。
俺にとっての敦美は、クライアントであり、尻や腿を触りながら酒を飲む、良い相棒だった。
俺はそれで充分だが、敦美と云う女の人生には、何かが不足しているように思え、その不足が、ひどく脆い心の女になっているようで不安だった。
その何かを、敦美自身が見つけるのが一番だったが、放置しておけば、永遠にそれを見つける機会がないように見えた。
しかし、押しつけても意味はない。
金の心配は一切ない。特にこれと言って、健康に不安もない。心配する家族がいるわけでもない。
そういう35歳の女に不足しているものは、何なのだろう。
家族、家庭、夫、子供、恋人、お金、健康、趣味……。
家族は現在一人もいない。敦美が再婚して、子供を産めば、家族が出来るかもしれないが、現在、その兆候はゼロだ。
恋人?俺が、恋人と呼べる対象の範囲にいるかは疑問だ。どこかで、互いに、パートナーであろうとしている。そう、パートナーなのだ。
何のパートナーなのか、その辺は曖昧だが、現在の生活を維持する為に必要な電化製品のような存在かもしれない。
互いに、要求すべきものがハッキリしている。俺にとっては、必要欠くべからざるものではないが、敦美には必要だ。
ただ、ある一定の時が経てば、俺の存在が不必要になるのも決定している、そう云う関係のパートナーだった。
寿美と情交を交えた後で、敦美に会うのは苦痛だった。
しかし、今夜は会って、あの温かみのある肉厚なお尻の肉をたしかめたかった。
決して情欲的ではない何かが、敦美のお尻にあつた。
それが、どう云うものか、特に説明するつもりはないが、いま、俺たちはパートナーだよなと、確かめ合うようなものだった。
そんな俺の考えとは無関係に、ゆったりと、俺が訪問することを喜んだ。
「第三の愛人探しはどうなっているの?」
「あれから全然進展なしよ。あったら、すぐに話しているよ」
「寿美さん家族からの接触はないだろうね」
「大丈夫みたいね。今のところ、私への接触の道は絶たれたままみたいだから」
「それは良いことだけど、少し寂しいとか思わないの?」
「あいつ等と音信不通になることが?」
「いや、そう云う意味じゃなく、誰とも関係しない生活っていうのかな……」
「別に、何とも思っていないよ。週に3回は貴方に会えるし、貴方が、昔の男達の何倍も話してくれるから、寂しさもないからね」
「そう、それなら良いんだけどね。フトさ、生活が退屈なんじゃないかと思ったりしたものだからね」
「今のところ大丈夫よ。多分、プレッシャーだらけの生活が続いていたからさ、何もない生活を愉しんでいる最中なのね」
「片山との生活はプレッシャーだったのか?」
「そうね、無言の圧力が、そこいら中に散らばっているような、そんな感じだった。そんな感じの圧力のひとつが、あの人を死に追いやったようにも思えてくるしね」
「たしかに、そういう男と生活していて、君は、親の莫大な遺産を抱えていたわけだから、そういう事実の積み重ねが、君を押しつぶしていたんだろうね」
「そう、だから、あまり貴方も考えないで、私のことを、ね」
敦美の言葉に、一瞬突き放された気分になったが、その趣旨は理解できた。
敦美は、今のままの環境が良いだけで、なにも変わらないことを望んでいた。
つづく