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第134章
上野から電話が入った。
“もしもし、饗庭さん、ニュース聞きましたか。森永卓造の息子が殺されましたよ”
「あぁさっきのニュースで知ったよ……」
“あの事件、覚醒剤絡みらしいんですけど、何か知っていますか?”
「実は、近々渡そうと思っていたデータがあってさ、そのデータに森永俊祐って名前があるんだよ。つまり、殺された森永俊祐は、例の片山亮介の顧客だった可能性が濃いということなんだ」
“えっ!そうなんですか。そのデータって、饗庭さんの手元にあるってことですね”
「そういうことだ。明日にでも、“静”で会おうか」
“是非、しかし、こみ入ってきましたね”
「うん、気持ちが揺さぶられる事件だけどね、相当にあぶない事件かもしれないよ」
“そうですね、慎重に扱わないと、厄介な立場になりそうな事件ですね”
「そうなんだ。僕も、考えが纏まっていないんだよ。まとまる前に、君から電話がかかってきてしまった」
“いやぁ、それはスミマセンでした。だったら、明日までに、饗庭さんの考えを纏めておいてください。そして、”静“で、その結論を聞かせてください”
「そういう事にしよう。お互いに、命にかかわることだからね」
“想像以上に厄介、そういう感じですか?”
「厄介だね。次期総裁の目もある森永卓造の次男が殺された。しかも、薬物反応が出たわけだから、親父の政治生命だって怪しくなるからな」
“もしかすると、殺された森永俊祐以外にも、覚醒剤に汚染された政治家の息子や娘が絡んでいることも考えられますね”
「そうなんだね。しかし、内調とかが絡んでいる可能性がある場合、普通は、ああいうかたちで報道されないと思うんだが、そこが奇妙だ……」
“たしかに、警察に好きなように公表させたと云うことは……”
「そう、森永卓造の総裁の目を摘んでおこうとする勢力があると云うことだ」
“そうかぁ、随分キナ臭い事件になってきましたね”
「そういうことだ。追えば追うほど、危険が近づいてくるような事件だと思うよ。上野君も、よほど腹を据えないと、追わない方がいい事件かもしれないからね」
“饗庭さんは、どうなさる積りですか”
「俺の方は、もうルポを書くつもりはないから、君に情報を提供してオシマイだよ」俺は、心にもないことを言っている気もしたが、すらすらと出た嘘を、打ち消すつもりもなかった。
つづく