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第127章
俺は、敦美のアドバイスを受け入れて、マンションの駐車場を月極めで契約していたので、駐車場探してウロウロせずに済んだし、悪戯されるリスクも減ったことは嬉しいご褒美だった。
敦美が、必要経費から落とすから良いと言われたのだが、先ほどのように、俺の運用手数料を忘れていないとも限らなかった。
こっちの確認もしておかないと思いながら、イグニッションキーを回した。
敦美の部屋から30分弱で、家につけるのもありがたかった。
急いで車を飛ばしたいところだが、こういう時こそ安全運転に徹しなければいけなかった。
その辺は、ルポライター時代に身につけた癖だった。
特ダネに、直ぐ飛びつかない用心深さがないと、トップ屋と呼ばれる連中の命はいくつあっても足りないと、先輩たちから枕詞のように聞かされていた。
しかし、それにしても、俺はいま、なにを生業(なりわい)に生きているのだろうか、そんなことを考えながら、甲州街道に入った。
明大前を過ぎたあたりで、携帯が鳴った。
上野からだった。
上野からのコールには出なかった。
家に着いてからで良いとも思ったが、やはり、早い方が良さそうだった。
車を停めて、リダイヤルした。
上野は直ぐに出た。
「なるほど、それは興味深い話だね。与党の議員や、議員の息子らが、片山から薬を入手していたのではないかということだね」
「それで、躍起になって探しているのが、麻薬班ではなく、公安係ってことか……。それって、地検特捜部も関係しているのかな?」
「検察には動きがないか……。てことは、内調絡みで、ルートのもみ消しに動いているのかな?」
「それもありか。それと、弱味を握っておいて、政争の具に利用するつもりかもしれないってわけだ。なにせ、情報ってのは、料理人の腕次第で、どうにでも化けるものだからね……。そうか……」
「うん、その辺はからっきし、手立てがなくてね。ただ、わずかなルートが頼りってレベルなんだよ」
「近々、何らかの情報に辿りつくかもしれないよ。その時は、直ぐに連絡するからさ。君にとっても、すごいネタかもしれないが……。いや、俺は引退した身だからね、特ダネは君にあげるけど、ヤバイ相手とかかわる危険もあるから、充分に気をつけて扱うことだよ。内調まで動いているのなら、なお更だよ」
上野との電話は終わった。
それにしてもと、駐車したままの車の中で考えた。
俺のポケットの中でトイレットペーパーに包まれた、マイクロSDカードの中には、日本の政界をひっくり返すような情報が入っている可能性があった。
いや、まったく逆の場合も考えられた。小児性愛の動画でも入っている方が、危険からは遠ざかるのだが…。
仮に、その情報が、政界に流れている薬のルートだとすると、俺の気持ちが、どのような化学反応を起こしてしまうのか、自分でも自信がなかった。
昔のルポライター魂が頭をもたげてしまえば、とことん追求の手を緩めることはないだろう。場合によると、上野を出し抜いて、週刊誌に売り込みたくなるかもしれなかった。
しかし、精神的にも肉体的にも、既に、危険な情報を追いかけられるものは保持していなかった。そんな俺の心だけが動きだすのは、最も危険だった。
つづく