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第124章
壁紙は、警察が部屋を調べた時点ではしっかりと貼りついていたものが、今になって剥がれたのだろうか、いずれにしても、奇妙な捲れ方だった。
特に注意深く剥がす気はなかった。手触りで、中に紙片らしき大きさのものが挿し込まれているのはたしかだった。
かなり乱暴に剥がした所為か、指で押しても、唾をつけて押しても、もう剥がれを簡単に修復することは出来なかった。
しかし、もう解約するだけになった部屋に遠慮は不要だった。敷金から、修理代を差し引かれることを心配する懐具合でもないのだから、その剥がれは、どうでも良かった。
その紙は付箋だった。
付箋の糊の部分を二つ折りにし簡易な袋状の中に、マイクロSDカードが貼りついていた。
秘密を守る必要がある情報が詰まったSDカードを、俺が簡単に見つけてしまえる方法で隠すと云うのは不自然だった。
このSDカードに、愛人との秘密のビデオや写真が収められていることも考えられたが、そのような内容のSDカードを、女房の住むマンションに隠すと云うのは間が抜けていた。
片山が小児性愛愛好者であれば、その対象の、少年や少女の写真や動画を収めている可能性もあったが、32GBのデータ容量では、収蔵とまでは至らないものだった。
ということは……。
俺は、そのマイクロSDカードを、付箋で元通りに包み、さらにトイレットペーパーにくるんで、ポケットに押し込んだ。
このことは、当面、敦美にも話さず、自分の判断材料に利用すべきと考えた。
敦美に対抗すべき関係が来るとも思わないが、取りあえず、敦美には話さないでおこうと思った。
俺の勘は、それが問題の“片山ノート”だと直感していた。
こんなに簡単に、“片山ノート”が手に入ったことに拍子抜けを覚えたが、モノが見つかる時と云うものは、こういう偶然で起きることが多かった。
無論、確認するまで、マイクロSDカードが“片山ノート”である保証はなかった。
しかし、あまりにも単純な所に、片山が隠したと云うことは、緊急を要したからだろうと推測で来た。
然るべきところに、貴重な情報源である“片山ノート”を隠す時間がなかった場合、自分の家のトイレに隠すのもやむを得なかった、そういう状況だったと想像できた。
その情報の一部の権利を主張出来るような人物が、片山のマンションに押しかけ、ドアを叩きだしたのだろう。
そうなれば、もう外部にSDカードを隠す余裕はないのだから、このような場所に隠すのがやっとだったのだろう。
ということは、そのドアを叩いた人物、複数かもしれないが、片山が持っている情報を、力づくでも取り上げようと云う輩だと、片山は知っていたのだろう。
もしかすると、自分が殺されるかもしれないくらい覚悟するような訪問者だった可能性が強かった。
つづく