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第123章
片山と敦美が暮らしていた部屋は、窓を閉め切っていた臭いはあったが、死人がいたような印象はなかった。
「リビングには入りたくないの」敦美が、俺の背に隠れて呟いた。
警察の立ち入り禁止のテープは既になかった。
敦美は、寝室と自分の部屋を行ったり来たりしながら、必要な物を掻き集めていた。
俺も、警察が入念に調べたであろうリビングはパスして、片山の書斎を入念に調べてみた。
パソコンのない片山のデスクは寂しかった。
引き出しは開いていたが、乱雑に掻きまわされていた。警察の家宅捜索というものは常にそうだった。どちらかといえば、片山のマンションは乱雑にかき乱されてはいない方だった。
俺は、片山の愛人に関する情報がないか、その辺を嗅ぎ回った。そのような情報は、リビングや夫婦の寝室におくことはあり得なかった。
もし、何かを隠すとしたら、自分の部屋か、下駄箱、納戸や、バスルーム、トイレのような所に違いないような気がした。無論、警察に抜かりがあるとは思えないのだが……。
しかし、こと愛人が誰であるかと云う興味は、当面の警察の関心事ではないはずだから、どこかに、それを示す書きつけ程度残っていても不思議はなかった。
片山の携帯は、おそらく、警察が持ち去ったらしく、衣服からも、部屋からも見つからなかったようである。
しかし、一定の期間を過ぎれば、片山の携帯も戻ってくるわけで、チェックはそれからだ。
考えてみると、片山は殺される前から、警察にマークされていた可能性が濃厚なのだから、彼の携帯含む押収物から、関係者を割りだしているのは当然なのだ。
つまり、片山の愛人が三人であれば、その三人も参考人として、既に呼ばれているかもしれなかった。
もしかすると、寿美の家族の中にも、事情聴取を受けている人間がいるのかもしれない。
上野の顔を思い出した。切れ者の雰囲気はないが、俺の誘導が上手であれば、彼の特ダネにもなり、俺も情報を掴めるかもしれなかった。
トイレにしゃがみ込んで、用便しながら上野の番号を押してみた。トイレに入った時、何か壁の下の方に切れたような線が光って見えた。
用便が済んだら確認しようとしていると、上野が電話に出た。
「例の新宿の殺人事件に進展はあったのかな?」
「そうか、追いにくいのか。公安が出てきていると厄介だね。記者クラブからのリークも期待できないからな」
「顧客リストも見つかっていないんじゃ、薬物の方からの捜査も難航か……。そうか、クスリの入手ルートと公安関連が絡んでいるわけだね。つまり、入手ルートは解明できている、そういう感じなわけか」
「なるほど、泳がせているわけだね……」
「公安が、入手ルート関連の捜査に待ったをかけているわけだ……、そうか……」
「こちらの情報としては、彼には愛人が三人いたようなんだね。二人は判っているのだが、最後のひとりが本命らしくてね、その彼女が、情報が詰まった何かを持っている可能性があるから動いているが、その三番目の愛人が誰なのかが、わからなくてね」
「うん、また連絡するよ。もう俺は書かないから、上野さんの自由にすればいいから」
上野の電話を切った俺は、気になっていた、便器の裏側の壁に手を添えた。
つづく