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第115章
“研報社の上野です。いま話しても良いですか”
研報社の上野?一瞬、誰だろうと思ったが、先日、ジャズバー静であった上野だと気づいた。
“実はですね、殺された片山って男は、新宿中心に青山六本木界隈の覚醒剤関連の元締めだったようなんですね。主に、北朝鮮ルートに強かったのですが、東京都内では、三本の指にはいる販売網の中心人物だったようです。”
「まさか、元締めと言っても、入りの方なのか、出の方なのか」
“販売の方ですね。膨大な顧客データを保有していたらしく、その所在探しで、警視庁も本格的な捜査に乗り出しているようです。政財界芸能界の顧客データですからね、公安や麻薬取締班と殺人事件捜査班が入り乱れた乱戦になっている模様ですよ”
「入りは、北朝鮮ルートということか……」
“そのようですが、そちらの捜査は、後回し、そんな感じの警察の動きです」
「そうか、上野さん、俺の方に、入りのルートに心当りがあるからさ、その辺の情報を提供出来るかもしれない。まあ、少しばかり整理整頓した上で話すけどね……」
“それは有り難いですね。ただ、北朝鮮ルートとなると、かなりヤバそうですけどね”
「うん、そうだね。その辺は、深追いは禁物だけど、週刊誌ならではの書きっぷりは出来るだろうから……」
数日中に、“ジャズバー静”で会う約束をして電話は切れた。
「今の電話、片山の話なの?」
「あぁ、昔の仲間たちが、片山氏の商売に深く興味を持っているらしくてね……」
「それが、どうして貴方に関係してくるの?」
「蛇の道はヘビってことかな」
「でも、もうそういうルポとかの仕事はやめたんでしょう?」
「やめたよ。ただ、昔のよしみというのか、君が監禁されていた時に、彼らから情報を貰った都合で、俺が何となく何となく片山殺害事件に関わっているように思われている、そんなところかな……」
「それって危なくないの?」
「そりゃ大丈夫だよ。俺が知っているのは、殺された片山という人の奥さんというだけだからさ」
「それって、大丈夫のうちに入らないんじゃないの。だって、私は、その片山が持っていた筈のノートが原因で監禁されたのよ。だとしたら、知らないうちに、関係者の一人になってしまっているのかも……」
「大丈夫だよ。彼らは情報を大切にするからね、君を監禁した連中と情報交換することはありえないからさ」
「そうなのか、だったら良いんだけど、あの家族は凄く危険なんだから、私は怖いわ……」
「でも、君は、監禁されている時も、解放されてからも、その家族という人達を、それほど怖れているようには思えなかったけどな……」
「それはたしかに、昔の友達だからね、怖いという感情はなかったわ。でもね、片山が、麻薬の密売で重要な地位を占めていて、彼らにとって重大な情報を隠したまま死んだとなると、最期には、必死になって情報を取りにくるはずなのよ……」
「その情報が、片山ノートってことになるのかな?」
「そうだと思うわ。ただ、押収されたパソコンに情報はなかったし、片山ノートもなかったわ。片山が、どこかに隠してあるのだと思うけど、自宅ではないのはたしかね。」
「その事実を、その家族は知らない。だから、君が危険だし、君と関わる、俺も危険、そういうことかな?」
「そう……」
敦美が、まだ火種が残った身体を重ねてきた。
つづく