第71章「電話、終わったの?」敦美が、のぼせた顔でバスルームから出てきた。
「あぁ、すまなかったね、気遣わせて」
「いいのよ、髪、洗いたかったから」
「明日も警察に呼ばれているの?」
「そう、午後だけど、二時に来てほしいって」
「そうか……。まぁ、アリバイがないことは気にする必要ないと思うよ。殆どの人間は、一人でいることが多いものだから、そうそうアリバイなんてないのが、普通だからさ」
「そうよね。私なんか、普段だったら、いつも一人で家にいたから、アリバイ証明なんて、全然出来ないもの。昨日は、貴方が一時くらいから六時くらいまで一緒だったから、その時間のアリバイはあるけど、普段だったら、午前九時から、午後の十二時くらいまで、一人だもの……」
「全部、本当のことを言えば良いんだよ。いや、薬のことは言わない方が良いかな。少なくとも、覚せい剤らしきものを飲まされた、そう云う話はネグっても良いと思うけどね……」
「私も、何となく、言わなくても良い話だと思ったから、言わなかったわ。ただ、夫の態度が、財産目当てに感じられたから、後先構わず逃げ出した。ただ偶然にも、逃げ出した日か、その翌日に、夫が誰かに殺された、そういうこと。そういう感じで話しておいたけど、それで良いよね」
「良いんじゃないかな。どういう理由で、財産目当てだと感じたか聞かれたかな?」
「聞かれなかった。でも、大雑把だけど、父の遺した遺産は、不動産を除いて、十億近くあると云う話はしておいたけど……」
「そう言えば、資産のある女房と、しがないサラリーマンと云う夫婦の間で、そういう雰囲気があったかもしれないと云うことは、大体想像するよ。それで良いんじゃないのかな」
「昨日のアリバイの中で、貴方の話をしてしまったけど、拙かったかしら?」
「構わないよ。ただ、愛人が出来たので、夫が鬱陶しくなった、そういう考えをする奴もいるかもしれないな……」
「そうか。でも、貴方と私って、どんな関係なのか、まだ何も決めてないよね。」
「そうだね、愛人同士ってだけかな。いや、まだ数回の関係だし、愛人にも至っていないか。そうだね、何なんだろう、君と僕の関係は?」
「良く言うけど、ともだち以上、こいびと未満。そういうことじゃないの?」
「あぁ、そんな言葉が一時、流行ったけど、まさに、それだね。それでいったら」
「そうね、そうするわ」
「ところで、中井の方のマンション、どうする?」
「もう時間ないから、決めて貰えないかしら。特別、希望なんてないんだから。それにしても、あの部屋って、いつまで借りてなきゃならないのかしら?」
「今までの部屋、つまり殺人のあった部屋ね」
「そう、今は、警察の規制ロープで囲まれているらしいので、入ることも出来ないのよ」
「そうか、そう云う場合、どうなるのかな?」
「まさか、規制している間の家賃、警察が払ってくれる、そんなことないよね」
「ないだろうな」
たしかに、大家に引き渡すにしても、ひと悶着ありそうな話だ。損害賠償などと云う話が出ないとも限らなかった。
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