第31章敦美と云う“爆弾女”の境遇が、資産家の一人娘という設定は、酷く俺の好奇心を動かした。
敦美の夫である男も、同じように興味を持ったことは、充分想像出来ることだ。
敦美の亭主と俺の違いは、敦美の遺産を横取りしようと考えているか、守ってやろうかと考えている違いだ。
資産家の一人娘と結婚できる状況が目の前にぶら下がったのだから、相手の敦美に愛情を感じていたかどうか別にして、独身の身であれば、立ちどまり、想定集を頭の中で描いた上で、結婚に踏み切ったのだろう。
まして、現在のような“シャブ中”になっているわけではない敦美なのだから、充分過ぎる女の魅力を持っていた筈だった。
ただ、男の計算に狂いが出た。身から出た錆なのだろうが、初心を忘れて、女房への気配りを欠いた。
生活の慣れと云うものには、初心を忘れる罠が、至るところに埋め込まれている。
おそらく、日常的な態度が悪くなったとか、コソ泥のような浮気でもしたのだろう。
いずれにしても、舐めてかかった敦美と云う女房に、逆に見限られる雰囲気になってきた。
離婚と云う話題は出ないまでも、そうなる空気が夫婦の間に漂った。ここで、夫婦関係が破綻してしまうことは、亭主にとって最悪の結果だった。
夜の生活で、よりを戻そうと試みても、行為自体を拒否されてしまい、万事休すと思われた。
そんな亭主は、女房が、自分から離れられない状況は、どのような場合か、必死で考えたに違いない。
その結果が、女房を“シャブ漬け”にすると云う、馬鹿げているが、彼なりには、絶対的切り札だと、結論づけたのではないのだろうか。
その悪巧みは、おそらく、相続が始まる前から、仕込まれていたのだろう。
敦美が、遺産を相続してからでは、三下り半を何時突きつけられるか判らないわけだから、事前に実行された。
少なくとも、夫の収入で生計を立てている間、つまり、ギリギリのイニシアチブを握っている間が、夫の勝負どころだったに違いない。
そうしなければ、彼は、身の安全と云うか、結婚の目的のすべてを失うのだから、必死だったろう。
敦美の父親が、いつ死ぬか、時期は未定だったろうが、その可能性が徐々に近づいていることを、男も知っていた、と考えるのが一般的だ。
夫婦の関係が、そこそこ、円満であった時期に、その情報は共有されていたのだろう。
つまり、自分の女房を“シャブ漬け”にすることで、相続が開始された後で、敦美が日常的に、正常な判断能力が失われるのを待って、“成年後見制度”を申し立てる予定の決行中、それが、今に思えた。
“成年後見制度”は、裁判所が絡むので、亭主が無職であるなど、裁判所が、素直に“成年後見人”に選任しない場合もあるので、亭主自身にも、忍耐は要求される。
ここまでの事実関係、そして、俺の推理、想像、妄想を推し進めると、敦美の立場は、相当に危機的だった。
つづく
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