第469章今朝、シャワーを浴びたのだから、そう思いながら、シャワーを浴びている自分がおかしかったが、構わず髪まで洗っていた。
三上社長の奥さんとは、一度しか会ったことがないので、亡くなったことで、感情が動かされることはなかった。
映子さんは、様々な思いが去来しているだろうが、私の感情に訴えてくるものはなかった。
・・・・・・いや、待てよ。私への影響は、かなりあるかもしれない。
社長が、私を後継者にと言いだしたのは、奥さんの看病に専念したいという気持ちだったはずだ。
ということは、今この時を持って、私の後継者問題はなかったことになる。
社長は当面、後継者を決める問題から解放される。つまり、私も、経営を担う圧力から解放されるって・・・・・・
私は、目の前が開けた。
背中に羽が生えて、今にも飛び立てそうな錯覚に陥った。
この感覚は、嘗て味わったことのないものだった。
大学に合格した時、処女を失った日、妊娠した時、竹村を失った時、竹村ゆきを産んだ時、白血病から解放された日。
その、どの日にも感じなかった、解放感があった。
酷く不謹慎な心持ちだったが、隠しようもない事実だった。
理屈の上では、三上社長の後継者になることに、特別忌避する考えはなかった。しかし、現実には、後継者問題は、嘗て経験したことのない緊張を私に与えていたようだ。
自分自身、それほど重大視していなかった筈の後継問題からの解放が、これほどの力を持っていたことに、愕然とした。
無意識の中での圧力だったのか。休職、闘病している間に、人格が変わったのだろうか?
そういえば、有紀が、抗がん剤って、人格まで変えちゃうの?、と話していたのを思い出した。
それは、あり得ないが、生きるか死ぬかという、病に冒されたことで、自分ですら自覚していない資質が目覚めることがないと、は言えなかった。
しかし、そこまでの道筋を理解できたとして、どのような資質が目覚めたのかが、判らなかった。
“され、これは厄介だぞ”
私は、言葉を口にした。
私の内部で、地殻変動がおきている。
それは、認めよう。
しかし、その地殻変動はどのようなもので、どのような欲求や欲望を持っているのか、皆目見当もつかなかった。
そもそも、生まれつき持っていた、私の内部の何かがはじけたのだ。
その何かは、必ず、私の生き方を変えてしまうに違いなかった。
高坂尚子への恐怖は、物理的バリアで対抗できたが、この異質な内部攻撃は、排除するのは不可能だった。
この、内部から湧き上がってくる何かは、私の運命を決定づけるのではないのか?私には、強い予感があった。
しかし、その正体が自分でも判らないと云うのは、酷く不安でもあった。
いずれは、その正体に気づくとしても、自分の内部に、コントロールの出来ない精神的生き物が生息していると云う強迫観念は、怖ろしくもあり、愉しみでもあった。
つづく
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