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終着駅455


第455章

2週間後、私は退院した。横には有紀が付き添っていた。

4カ月ぶりの外界の空気が美味しいのか、酸素不足なのか、何も実感しない内に、神楽坂の部屋に辿り着いた。

部屋のセッティングは変っていないのに、なぜか自分の嘗ての部屋とは、違う何かを感じた。

ニオイなのだと思う。私の部屋のニオイが消えていた。

自分や、自分の持ち物やタバコ、コロン、ワイン、食べ物が複雑に織りなしていた、私の部屋のニオイが消えているのだ。無臭無味、ひどく無機質な感じで、ぬくもりがなかった。

「なんか、この部屋、落ち着かなくなっているけど、有紀、どこが変ったんだろうね。久々だから、私の錯覚なんだろうか?」

「気づいた?姉さんって凄いね。姉さんが退院するのが判ってから、無断だったけど、部屋の大掃除やっちゃったんだよ。腰を抜かすようなお宝も見つけたけど、無論、其の儘にしておいよ」

「あぁ、隠し財産見つかっちゃったのか……。まあ、特別、隠しておいたわけではなく、分散して保管しただけだけどね……。でも、掃除しただけで、こんなに変るものなの?」

「掃除を徹底したこと。正直、私の感覚だけど、無菌室にしてやるぞ!って感覚でね。埃を叩き、何度も掃除機かけて、もう一度埃を叩いて、掃除機かけて、その後で目に入るものすべてを、ちゃんと拭いておいたんだけど、その所為かなな?」

「そんなことまでしてくれたの?」

「まあ、何となくなんだけど、何かに、自分の部屋で感染するのは最悪だと思ってさ。姉さんの話だと、そんなに神経使わなくても良いようなんだけど、私の気持ちの表現の一つの積りでね……」

「いや、そのことは、嬉しいだけで、感謝すべき問題だけどさ、何か、ニオイと云う点が引っかかるの……」

「あっ!わかった。空気清浄機だよ」

「空気清浄機?」

「そう、かなり高性能なヤツを3台買って作動させているの」

「その所為か、部屋からニオイが消えてしまっているのは?」

「そう言われてみれば、何となく、私たちのニオイも消えているかもね」

「3台って、どことどこにあるの?」

「リビングに一台、寝室に一台、そして、キッチンに一台」

「それ、全部作動させているんだ」

「そういうこと。やり過ぎだったかな?」

「でも、折角だから、動かしておこうよ。いずれ、どんなことしたって、色んなニオイがつくだろうからね。でもあれだよね、ニオイが消えるって、意外に衝撃的だね。初めての経験だけど、凄く不思議な空間だよ」

「そうだ、それに、私、タバコやめたから、その臭いも消えたんじゃないかな?」

「禁煙したの?」

「姉さんも止めていたわけでしょう?」

「そりゃあ、無菌室にいるんだから、あそこで吸ったらキチガイだもんね」私は、無菌室の閉鎖空間で、タバコの煙が充満する映像を想像して、吹き出しそうになった。

「姉さんが死に物狂いで闘病しているのだから、本当なら“お百度参り”くらいしなきゃならないと思ったの。でも、それは無理だからね、一緒に禁煙ってことにしただけ」有紀は、ケロリと口にしたが、表情を読み取られたくないのか、立ち上がると、キッチンに向かった。

私には、有紀が泣き出す寸前に見せる、顔の前兆を感じていた。
つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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