第454章数日後、村井先生の診察が始まった。村井先生の態度は吹っ切れていた。
そろそろ、村井先生の口から、朗報がもたらされる筈と、私はドキドキしながら、その言葉を待ち構えた。
「あまり状況を説明せずに、念入りに検査して申し訳ありませんでした」開口一番、村井先生は頭を下げた。
謝るのは後で良いから、病気の方は治ったの?
私は、そこが知りたいのよ!。叫びそうな気持で一杯になっていたが、それでも、喉から出る言葉を飲みこんだ。
「まもなく、退院の時期を相談することになりました」
私は、その村井先生の言葉を聞いても、白血病から解放された気分にはなれなかった。
その所為か、その悦ばしい情報に、反応は鈍かった。
「実はですね、竹村さんの癌細胞は、驚異的な治癒の進捗をしめし続けていたんです。
血液内の赤血球や血小板にも減少から、急回復していますしね、白血球も正常値に近い状況です。
つまり、今すぐ、外を歩きだしても、免疫力がない状況ではなくなっている。そう云う検査結果です。
ただ、あまりにもあっけなく癌細胞が退治出来て、正直、僕の方が不安だったわけです。
竹村さんの癌細胞は非常に質の良いⅯ2に分類された白血病だったのですけど、それにしても回復が急すぎましてね。
経験上、Ⅿ2の患者さんの治療もあるのですけど、竹村さんの場合は、例外的に早いんですよ」
「それで、逆に、なにか落とし穴があるように思われた?」
「ええ、正直、自分の治療スケジュールを過信する気はありませんでしたから……」
「それで、念には念を入れられたわけですね。その念入りな検査でも、癌細胞は見つからなかったと云うことですね?」
「そうです。
ですから、無罪放免です。
血液の状態も、健康体に近い状況ですから、免疫力の心配もないでしょう。
明日、以前の個室の方に移動して貰いますけど、特に竹村さんが何かしなければならない事はないと思います。
あぁ、部屋が変ったことを、ご家族に知らせることくらいでしょうか……」
「先生、何だか愉しくなさそうなんですけど、何か引っかかっていらっしゃるの?」私は、煮え切らない態度の村井先生に、単刀直入に尋ねてみた。
「いや、患者さんが経過観察に至ったのだから、無論嬉しいですよ、只……」
「ただ、何ですの?」
「単なる医者の習慣のようなものですけど、自分の考えているペースより早く症状の改善が見られると、やったぞ!という気持ちよりも、何か見落としがあるのでは、という気持ちが強くなるんですよ。僕は、特にそうですけどね」
「でも、考えられる検査はなさったわけでしょう?」
「えぇ、十二分にね。癌細胞は跡形もなく消えているし、血液の検査内容も正常値になっています。ですから、正直、病院に留めておく理由は何もありません」
「でも、もう少し確認してみたいわけですね?」
「いや、無菌室から出て、2週間くらいは、体力や筋力の回復期間と云うことですから、大事を取る意味だけです。血液検査を二回くらいしますけど」
「退院したら、普通の生活に、すぐ戻っても構わない、そう云うことでしょうか?」
「基本的にそうですけど、4カ月近く寝ていたわけですから、体力は薬の所為で落ちていますし、筋力も衰えていますので、最低でも2か月は、自宅で静養というのがお勧めです」
村井先生は、自分の治療があまりにも上手く行き過ぎた事への不安を抱えていた。
私も、その気持ちは理解できた。
完全寛解、地固め治療で、疑似治癒に至っているので、維持・強化療法の必要はなく、経過観察だけが残ると云うことだった。
退院後、本来なら、月一回の経過観察が多いらしいが、私は、村井先生の気持ちも考慮して、3週間に一回の検査を希望した。
村井先生は、私の言葉をきっかけに、いつもの自信に満ちた、村井先生に戻っていた。
つづく
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