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終着駅445


第445章

その夜、珍しく有紀が9時に帰宅した。今では、有紀が泊りに来たと云う表現は不正確だった。時々、自分の部屋に戻ることはあったが、神楽坂を本宅にしているような状況だった。

特に、私の身体に異変が起きてからは、伴走者のように、時間の許す限り、私の身近にいてくれた。

「有紀のプライベートな時間を、私、独占しちゃっているようね」

「そうね、男を作っている暇もないよ。後々、この落とし前は、たっぷり返して貰うつもりだから、忘れないでね」

有紀が時折見せる、妖艶な笑顔は、私の脳幹に響いた。脳幹の響きが、内臓を一直線に走り、下腹にある迷走神経を目覚めさせる。

美しい女だと、今さらながら、自分の妹の横顔をみつめた。鼻梁が、鋭角的で、私との違いを鮮明に印象づけていた。

私は、下半身の疼きを抱えたまま、現実的話題を持ちだした。“竹村ゆき”に乳首を咥えさせたまま、有紀の愛撫を受けると、殊のほか気持ちが良いような予感がしたが、敢えて、今夜の愉しみに残した。

「有紀さ、前にアンタが言っていたこと、気になっていたんだけど、あの、“何かを決めなければいけないって”、あれは、何を決めなければいけなかったの?」

「あぁ、あれね。特に、決めないといけない事情ではないんだけど、劇団も大きくなったし、運営も結構大変でしょう。
座長の仕事が凄く増えちゃってね。
それでいて、シナリオは書かなければならないし、主に主役を演じなければならないわけよね。
どう考えても、どこかで壊れると思うの。どれが壊れるか判らないけど、その中のどれかが……。
場合によると、一気に全部ってこともあるわけよね……」

「そう云う事か。たしかに、忙しいのは私だけかと思ったけど、有紀のも相当にハードだよね。
シナリオと女優は同種だけど、運営は別物だしね。
その上、騒がしい私の問題まで面倒見てくれているんだから、考えたら、チョッと心配になるね」

「姉さんの方のは、勝手に私の感情が、そうしたいって言っているのだから、精神的には楽なのよ。
姉さんに纏わりついていない方が、よっぽど精神衛生に好くないから、やっているだけ。だから、それは疲れないの。
問題は、先ずは運営ね。それから、出来たら女優の方は降りたいかな?」

「えっ!アンタが女優をやめるなんて、それ、チョッと変に感じるんだけど……」

「多分、劇団の人間も、誰も、そんなこと考えてもいないと思うのよ。
でも、私は演じることに疲れているの。
いつか、女優としての私には限界が来るなって、自分で感じているわけ。
私って、姉さんも知っているけど、勘を頼りに生きてきた女だからさ、これからも、その勘を頼りに生きていきたいわけ。
そうすると、化けの皮が剥がれないうちに、女優業から離れた方が、正解じゃないかって感じるわけ」

「最近は、舞台の方観る暇もないので、判らなけど、評判は上々なんでしょう?」

「そう、上々だから辛いんだね。手抜きが出来なわけよ。
観客は常に新しいわけだから、常にフレッシュな“滝沢ゆき”が舞台に居なければならない。それって、相当にハードなんだよ。
でも、評判を落とすのも嫌だからね、神経すり減らして頑張っちゃうわけ。
姉さんが、今のような状況になったことで、今のところアドレナリンが噴出しているから、だいぶ一時の疲労感は消えているけど、なくなったわけじゃないからね……」

「そうなのか……。たしかに、言われてみると、昔の観客の少なかった時代とは異なる疲労があるわけだ。それは、只の疲労ではなく、強迫観念みたいなものも一緒にくっ付いてくるのかもね……」

「個人的欲望から言えば、シナリオ一本槍で行きたいんだよね。
だから、最近のシナリオでは、W主役、トリプル主役みたいなものを意識的に導入しているの。
主役を張れる女優が育つのを待つか、劇団外の女優を抜擢してみようか、色んなこと考えているんだけどね……」

「個人的には、私は、舞台にいる滝沢ゆきのファンだけどさ、只のファンの目と云うことだからね。それにしても、どうしてシナリオじゃなく、女優の方をやめようと思うわけ?」

「私の感覚の問題だけど、自然現象として、老いて行くわけだけど、私の場合、老いた女は演じられないと感じているわけ。
姉さんのように、まろやかさがある場合は、老いてからも、舞台映えするんだけどね、私の雰囲気は、強く逞しい独身女と云うのがお似合いなのよ。
だから、深味のある演技に問題が…なんて言われる前に、舞台を降りたい、そう云う感じかな……」

「なるほどね。私は、有紀のようには思わないけど、そう云う事は、有紀の感性を支持するしかないからね。
そんな、悩ましい問題抱えている有紀に、頼むのは酷な感じなんだけど、頼みがあるんだけど、聞いて貰える?」

「まだ、姉さんの為に出来ることなんて残っていた?」

「いや、新たに加わったんだけど、例の基金の話なのよ」

「基金の話し?」

「そう、単刀直入だけど、次回のシングルマザー選考を、有紀にやって貰いたいの」
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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