第432章ニンニクのきいた味噌ラーメンを食べた私は、診察台の上にいた。
きっと、櫻井先生の鼻腔にもニンニクの臭いが届いているに違いないと、自分の悪巧みが成功することを祈っていた。
櫻井先生は、触診に躊躇はなかった。
「奥の方に痛みはありませんね?」そう言いながら、櫻井先生は、必要以上に、膣の奥を指でまさぐっている感覚があったが、触診の一環に過ぎないのかもしれないが、私の身体はそのように受けとめ、潤んだ。
身支度を整えて、診察室に入ると、櫻井先生は何事もなかったような童顔を向けて“順調そのものです”と断言した。
「思った以上に早く、保育器から出られそうですので、妹さんの方にメールを入れておきました。クリスマス前に、赤ちゃんは退院出来そうですが、受け入れてくれる方に、スケジュールをご連絡くださいと」
「だとすると、来週末くらいには退院できると?」
「昨日の時点で、2000グラムに近いですからね。この調子で成長すれば、2500近くなりますので、保育器などは不要です」
「そうでしたか。じゃあ、あれですね、私の入院と、子供の退院は同時期くらいになると云うことですね」
「そんな感じですね。まあ、村井先生に確認してみないと正確なことは言えませんが、ほぼ同時期です」
「今、考えてみたのですけど、私の希望としては、子供が退院してから二日間ほど、治療の方の入院を待っていただきたいのですけど……」
「チョッと待ってくださいね、村井先生いるかな……」櫻井先生は気軽に院内電話で村井先生を呼び出していた。
櫻井先生と村井先生の会話が続いた。私の申し入れは認められそうな会話の内容だった。
「わかりました。それじゃあ、こちらの方で採血した上で、先生の方にお届けするようにしますから。……。えぇ、今目の前にいらっしゃいますよ。……。了解です、では、いま変わりますから」
櫻井先生が、私に電話に出るように促した。
「もしもし、竹村です」
「いま、櫻井先生からお聞きしましたけど、問題ないと思います。念のため、採血して、現状を確認しますので、櫻井先生の指示に従ってください。それにしても、赤ちゃんの状態が順調らしいので幸先が良いです。こちらの治療態勢も万端ですので、安心して、10日後くらいにはお会いしましょう。それから、その時の、入院の病室ですが、特別室と普通の個室と、何かご要望はありますか?」
「いえ、別に要望という程の事も…、あ、でも、慣れた部屋の方が気軽かも……」
村井先生は、そうしておきます、と事務的に答え、電話は切れた。
幾分、事務的過ぎるんじゃない?と感情的に思ったが、診察中なのだから、当然だった。
私は、自分が、この病院で特別扱いされることに、馴れて、幾分、胡坐をかきだしている自分に気づいた。
”慣れと云うものには魔物が棲んでいる”。竹村が、よく、私に注意した言葉だった。あの時、竹村が、どういうシチュエーションで話してくれたのか、俄かに思い出すことは出来なった。ただ、厭に真面目に注意されたことだけは覚えていた。
つづく
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