第422章久しぶりで、私たちは、神楽坂のマンションに落ち着いていた。
有紀が初めに提案した旅の行き先は、河口湖だった。我々の住んでいる街と中央高速は繋がりが良いので、一番気軽に乗れる高速道だった。
しかし、河口湖を中心にある幾つかの湖を地図で確認してみると、河口湖、西湖、精進湖、本栖湖の名前が目に入った。
精進湖と本栖湖から、鳴沢村一帯に拡がっているのが青木ヶ原だと気づいた途端、私の心の中を冷たい空気が吹き抜けた。
「駄目よ、河口湖方面は嫌、伊豆とかにしようよ」
「嫌か~。残念だな、友達の旅館があるから、ピッタシだったのに……」
「有紀、河口湖の近くから、青木ヶ原の樹海に入れるの知っていたの?」
「えっ!樹海って、あんなひらけた所から、入れるの?」
「正確には、精進湖と本栖湖から入るんだけどね。だから、二人で、そこに旅をするのは、時期尚早ってこと」私は断言した。
「そうなのか、ごめんなさい、私、樹海に入るのって、もっともっと奥の方からだとばかり思っていたの……」
「その点は、私も同罪だから気にしないで。いま、地図を縮小していったら、青木ヶ原って名前に出遭っただけだから……」
「知らないって怖いことをしてしまうものなのね……」
「そうだね。私も、地図で確認しなかったら、二つ返事でオッケー出していたから……」
「そうだね、私たちの思い出の場所として訪問するには、時期尚早か……。まさか、河口湖からすぐのところに、樹海が広がっているなんて、思いもしなかったよ。圭は今ごろ、どこにいるんだろうね?」
「そうね、桃源郷でニヤニヤしてるんじゃないの?」
「なんだか、姉さん、圭に冷たくなってない?」
「そうね、特別考えなくなった。ただ、それだけの理由だと思うけど、深く立ちどまって考えなくなった。冷たいようだけど、間違いなく、彼はいなくなったのだから・・・・・・。きっと、竹村がいなくなったときに、同時に、圭のことも、一緒に葬り去った?いや、自発的じゃないく、自然消滅したのかな?正直、あまりよくわからない」
「それにさ、なき人のこと考えている状況じゃなくなったしね・・・・・・。当たり前かもしれないね。つまらないこと聞いちゃったみたい・・・・・・」
「気にしなくて良いよ。それよりも、どこに行くか、それを決めないと」
「そうだった。彼女に断りの電話ついでに、ご推薦の宿があれば聞いてみようと」
有紀は、重苦しい空気を切り裂くように立ち上がると、電話をかけ始めた。
『ごめんね、折角最高の部屋押さえて貰ったのに。ただ、例の弟の件で、青木ヶ原が近いことに気づいちゃって……』
『そうなの、やはり、まだ完全に立ち直ってはいないから……』
『逆さまなら良いでしょうって?』
しばらく、相手の友人の話に聞き入っていた有紀が話し出した。
『そうか、湯本の方なら、気にしなくて済みそう』
有紀が、私の方に目を向けて、“問題ないよね”と問いかけてきた。私は、大きく首を縦にした。
『それじゃあ、悪いけど、そこ押さえて貰える……。あぁ、“はなれ”で専用露天風呂がついた部屋があるのね。それが良いわ……』
『料金、高くても平気だけど、幾らくらいかな?……4万円弱ね、大丈夫お願いするわ。……。3泊4日にして貰える。……。ロープウェーに乗るってことは、強羅とか芦ノ湖とかに出る時は、動かして貰えるのかしら。……。そう、だったら問題なし。宜しくね。……。えっ、来年の夏には閉店しちゃうんだ。なら、余計、話のネタにいいよね。……。舞台でも使えそうなロケーションかも。……。』
有紀と友人の話は、その後もかなり続いたが、話の流れから期待できそうな旅館だった。箱根と云う温泉地に魅力はないが、現在の私の環境では、適度な距離にあった。
つづく
いつもクリックありがとうございます!
ブログ村 恋愛小説(愛欲)
アダルトブログランキングへ
FC2 Blog Ranking