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終着駅373


第373章

村井先生は、前置きもなく、がん細胞が確認されたので、急性骨髄性白血病と診断を下した。特に衝撃はなかった。“そうでしょうね”くらいのものだった。

「あの、急性の白血病は抗がん剤で8割近い患者が完全寛解すると聞いたのですが、残りの2割の人はどうなるのですか?」私は、素朴に質問した。

「少なくとも、僕が手掛けた抗がん剤投与で、完全寛解しなかった患者さんはゼロです。
殆ど、ワン・クールの投与で、ほぼがん細胞を撲滅しています。ほぼと言ったのは、1兆個の癌細胞が10億個になるってだけですけどね。これを完全寛解と言います。
完全と云う言葉は、僕は不適切だと思っていますけど、現時点では、そう言います。億単位になると、癌細胞自体による悪さはしなくなるのですが、以前体内には残っていますから、目覚めることもある。そう云うものです。」

「つまり、完全寛解を治癒と言わないのは、そう云うことですか?」

「そうです。僕の予定では、竹村さんの化学療法、抗がん剤投与は6週から7週に亘って実施する積りです。少々長めに取ったのは、出産による身体の回復度を考慮に入れています。その後、完全寛解を確認した後、約1か月程度の地固め療法を行います」

「足し算すると入院は3カ月になりますね?」

「いや、竹村さんの場合、癌治療の前に出産と云う一大事業をこなすわけですか、開始時期は、出産後の回復度合いを充分に観察する必要があるわけです。この辺のことは、櫻井先生に答えていただくことにします」

「村井先生の仰る通り、普通の出産でも、母体には様々なダメージがあります。まして、今回の場合、妊娠30週で1600グラム。一週間後に出産の処置に出るとして、31週で1700グラムです。
出産による母体へのダメージは、赤ちゃんが小さいから楽そうに思われるでしょうが、分娩促進剤を多めに投与するでしょうから、様々なダメージが母体に出てくる可能性は一般よりも数段多いと予想しています。
ですから、出産後1か月は、最低回復期間にしたいわけです」

「あいだを1か月も開けるんですか?」その期間に、特に不満や不安があったわけではないが、思わず質問が口をついた。

「不幸中の幸いですが、竹村さんの場合、非常に早期に病気が見つかっています。ステージ1の初期段階に近いわけです。
つまり、僕の方が治療に入るタイミングには、かなりの余裕があると云うことです。
竹村さんが、妊娠していた事が、早期発見に繋がったわけです。ですから、櫻井先生のお墨付きが出るのを待つ余裕があると云うことです」村井先生が話を継いだ。

「お腹の子が、私の白血病を見つけてくれた、そんな感じですね」私は、しみじみ、そう思った。

「そうだと思います。でなければ、貴女の症状だったら、貧血だろう、鉄分を補充しようか程度の話になっていた可能性がありますからね」村井先生が、私の幸運にお父上の、たしかな診断があったとは言わなかった。

言わなかったが、それは事実だし、その担当医であった村井医師の息子さんが、骨髄性関連の専門医であった幸運にまで巡り合えたのだから、運命的だった。

「本当ですね。お腹の赤ちゃんが幸運の守り神だったってことですね」私は、思わずお腹に手が伸びた。

「明日、出産に充分かどうかの、検査をしなければ確実なことは言えませんけど、現時点では、前向きに自然分娩の方向で院内の調整はしています。
正直なことを白状しておくと、竹村さんのケースは、緊急避難的な処置なわけです。白血病の症状が表れない段階で癌が発見されたので、幾分時間的余裕があります。
つまり、お腹の赤ちゃんを、もう少し育てる時間的余裕があるわけでして、そこも幸運でした。
本来、順調に成長している胎児を二か月程度早めに医学的に出産させてしまう通常の医療ではありません。
現実に、そのような希望があっても、一般的には医学倫理上も許されることではありません。つまりは、レアケースな千載一遇のチャンスなのは、僕自身の研究にも寄与してくれます。
多くは語れないのですが、“とつきとうか”と云う妊娠出産の概念を改革していくと云う、あまり考えられない発想と云うか研究に寄与してくれるわけです。
そう云う意味で、僕が、竹村さんの早期分娩に協力する姿勢は、単に、貴女の要望に応えているわけではなく、自分の野心的な改革にもマッチングしているわけです。つまり、治験のケースに当て嵌まります。
そう云う事ですので、竹村さんのためであると同時に、僕自身の為でもあるわけです。
なにが言いたいのか、話していて判らなくなりましたが、ですから、僕は貴女のため、僕のため、全力を尽くす。そう云うことが言いたかったのです……」

櫻井先生の告白タイムが漸く終わった。村井先生は、余計なこと言わなくても、と云う表情を浮かべていたが、私は、櫻井先生の純真で、それでいて野心的な研究者としての姿勢に好感を持った。
つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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