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終着駅16-1


第16章-1

 それから数日経った日に、圭からメールが届いた。

 『この間は、レクチャーありがとう。非常に役立ちました。無事、絵美との儀式も終わりました。姉さんの言う通り、痛みは一瞬で、繋がったことへの満足感が伝わってきました。君も姉さんにお礼を、と言うべきところですが、それほど不用意ではありません。ところで、姉さんの口座番号を知らせてください。お知らせいただき次第、振込させて貰います』

 私は、圭からのメールを眺めながら、様々なこと、会社のデスクで考えていた。今日は、部課長が出張で、一番偉いのが主任の私。予期せぬ出来事が絶対になさそうなオフィスの空間は、居心地がよかった。

 ……圭が言っていた100万円が振り込まれるのだろうか?100万円って法外なカウンセリング料だよね。口座番号を知らせてしまえば、圭は必ず振り込んでくる。そう、私が口座番号を伝えなければ、彼はなにも出来ない。でも、それを受け取らないことは、もっと厄介な関係だけを際立たせる。二人の関係に、ビジネスが絡んでいることの方が重要かもしれない。そうしないと……。

 その時、デスクの電話が鳴った。母からの電話だった。電話は携帯に掛けるよう、何度となく話しているのだが、一向に直す気配のない母親だった。話の内容は、一時を争うような問題ではなかった。殆ど聞き役に回ったが、要領の得ない話だった。

 「急ぐ話でもなさそうでしょう。家に帰ってから聞くわ。いま、チョッと立て込んでるから、切るわよ」私は電話を切った。

 結局、美絵さんが、“圭の様子が変な感じだけど、お母さんに心当たりはありますか”と云う電話があった。私は気づかないけど、涼が知っているかもしれないので、聞いてみる、と返事をしたらしい。それで、早速会社に電話を入れてきたと云うのだから、余程、暇なのに違いない。

 母の電話には腹が立ったが、美絵さんからの電話と云う点では、私の興味を惹くに充分な情報だった。美絵さんが、何を持って、圭が変だと感じたのか、ポイントはその部分じゃないの。なのに、母ときたら、そういう重要な部分は、何も聞き出していないようだった。二言目には、どうしたんだろう?と云う言葉が口をついた。

 少し気がかりになってきた。美絵さんが、変に思った圭の態度によっては、私まで巻き込まれる危険があった。かといって、私が、美絵さんに、唐突に、その件を聞きだすと云うのも奇妙だった。ここは、母をおだてて、母さんしか、その圭の変に気づいた理由を、美絵さんに聞ける人はいない、とおだてることにした。

 「そう、その理由が分からないと、圭に聞くにしても、とりとめなくなるでしょう。それに、そういう事聞く権利があるのは、お母さんだけなのよ」私は、踊り場に出て、携帯に語りかけていた。

 「そうね、聞き忘れたけど、どうして圭が変だと思ったの?って聞けばいいのよ。それを聞けるのは母さんだけよ。もう、私と話したとか言っちゃ駄目よ。母さんの考えで、疑問になったからって、言わないと」私は何度かダメを押して、電話を切った。
つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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