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終着駅96 奥さんである美絵の嬌態を見せつける


第96章

動画は、一定の意図に沿ったシナリオがあるのだと思った。圭に、奥さんである美絵の嬌態を見せつけるために作られた動画のように思えた。

圭は、そのことに気づいて、早々に動画を見ることを放棄したのかもしれなかった。

この“ナオキ”と呼ばれる男は何者?圭に問い質したい気持ちだったが、ベッドに寝転んで、寝ているのか、考えているのか判らない圭に、声を掛ける気にはならなかった。

おそらく過去に、かなり美絵を巡って確執のあった男であることはたしかだった。

ただ、選りによって、なぜ過去の確執ある男を、美絵さんは意趣返しの浮気相手に選んだのか。即、連絡出来て、浮気が実行可能だと思える男を選んだのだろうか。“ナオキ”と云う男が、一番ダメージを与えられる男だと、美絵は認識していたのか。私は色んな事を考えてみたが、これという決め手を見つけることは出来なかった。

ホテルの帰路、圭は無口だった。余程ショックだったのは判るが、なにも、私にまで不快さを感染させる必要はないと思ったが、残された当事者であることを考えると、それも致し方ない状況だとも思えた。

動画のCDを預かって欲しいと言われた時は、幾分意外な感じがした。しかし、自分が持っていることに耐えられないが、廃棄することも出来ないと考えたのだろうと、私は預かることを承知した。

到底、圭と私がホテルで過ごしたとは思えない沈鬱な一日が終わった。別れ際の圭のつくり笑顔が、淋しそうだったが、部屋に寄っていきなよ、と云う勇気はなかった。

私は、完全に氷のように固まってしまった身体をバスタブに沈めて、溶けてゆくのを待っていた。頭らかタブの中に沈み込みたい気分だったが、頭の芯をほぐす方法は見つからなかった。

ことの顛末を整理しようとしたが、事実と思い込みが頭の中に生き続けているので、整理できる状況ではなかった。たぶん、圭もそういう心境が、彼を無口にしたのだろうと思った。

有紀でもいてくれたら、随分助かるのだけど、彼女からの連絡はなかった。意外なことだが、平時は私や圭の方が優れているように思えたが、非常事態に陥った時、一番頼りになるのが有紀だと云う事実も不思議なものだった。

昨日の残りご飯が電気釜に残っていた。お茶漬けにするには丁度良い分量が残っていた。京の老舗のお茶漬けの素を用意して、ティーパックのお茶を用意している時、携帯が鳴った。

思いが通じたのか、有紀からだった。午前1時は過ぎるけど、泊りに来たいと云う電話だったが、おそらく、有紀は気を使って無理に時間を作ったのが、なんとなく分った。彼女のさり気ない優しさに、私の心はほっこりしたが、二人で話すだろう内容は、とてもシリアスなものである事は承知していた。
つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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