第75章流石の有紀も沈鬱な表情を浮かべて、ラブチエアーに座っていた。今夜はワインを飲む気分じゃないねと言って、濃い目に淹れた珈琲を飲んでいた。
「姉さん聞いてなかったのか。さっき、圭と電話で話したけど、服毒自殺だったらしいわ」
「そう。圭は大丈夫だった?」
「そうね、泣きじゃくってはいなかったけど、元気はなかったね。当たり前かもしれないけど…」
「睡眠薬飲んで、その上で青酸カリの服毒、念入りに自殺しようとしたのね」
「あまり詳しくは聞かなかったけど、そうしたらしいよ。たしかに、絶対に失敗したくないって気持ちが現れているよね。美絵さんからは、そんな凄味のある殺気なんて感じなかったけど、分らないものよね」
「そう、まったく感じなかったわ。気弱なくらいに感じる女性だったのに、余程のことがあったのかもね」
「私たちと圭との関係を知ったのかしら?」
「どうなんだろう。仮に、私たちが絡む問題であれば、何らかのアクションとか、フェイントくらい飛んできても良いはずだけど、特別思い当たることもなかったし…」
「そうよね、何年か前に、姉さんに奇妙な手紙が舞い込んだ事と、今回の美絵さんの件と結びつけるのも変だしね」
「まったく関係ないかどうか別にしても、直に美絵さんの自殺と関連づけるのも飛躍だよね」
「彼女さ、誰かに脅迫されていたんじゃないのかな?」
「強迫?」
「そう、彼女自身の過ちで、脅迫されていた」
「美絵さん自身の過ちって、彼女が浮気をしていたとか?」
「そう。美絵さんが、何らかの事情で、浮気に走った。その結果、のっぴきならない事情、いや事件のようなものが起きて、切羽詰まった…」
有紀は遠くを見つめる目で呟くように語った。シナリオライターである有紀の想像が、目まぐるしく様々なシチュエーションを展開させているだろうことは、容易に推測できた。
「美絵さんのような恵まれた主婦が悩むようになるのは、自分の病気とか、子供の育児とか、旦那さんの浮気や暴力だよね」
「そのどれもが当て嵌まらないわけだから、その事情は、推理しかないわよね。彼女が、ふらりと誘われて薬に手を出してしまったとか…。でも、そんなことなら、現場の確認作業の中でも、ある程度判ることじゃないの?」
「覚せい剤とかに手を出していたってこと?」
「そう。でもその線は消えているのだと思う。そうなると、やはり残るのは男よね…」
つづく
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