第74章美絵さんは、我々のまったく知らない、何らかの秘密を抱えていたのかもしれない。圭も、彼女の父親も知らないのっぴきならない秘密があったのかもしれない。
美絵の母親は、何らかの心当たりがあるようにも感じられたが、私の感覚であって、特に具体的な証拠などはなかった。
ここまで事態が進展した以上、圭と腹を割って、我々が知っていることを、丸ごと俎上に乗せて考えてみなければならないと思った。
有紀から、メールで返信があった。『夜中なら行けます』という内容だったので、『寝ているかもしれないから、電話して』と返信しておいた。
有紀にとっても衝撃的な美絵さんの死だったが、詳細を語れるような状況ではなかったようで、無理やり時間の都合をつけた感じだった。
今回の問題で、有紀に力を借りなければならない事態は少ないと思った。有紀と圭の関係は、私と圭との関係の副産物のようなもので、従属的だった。近親相姦に便乗して、自分も経験しておこう。そういう感覚だったに違いないから、私よりも当事者レベルは低かった。
どちらかといえば、家族の一員としての悲しみの共有と云う感じに過ぎないだろう。我々三人の関係が美絵さんの自殺の原因であるなら、もっと具体的な指摘が遺書にしたためられている筈だった。
あの母親が何かを知っているとして、彼女は、その何かを、誰かに打ち明けるだろうか。圭に打ち明けるとは思えない。父親には話すかもしれない。無論、私や有紀に話すことはないだろう。
私は有休を取ったにも関わらず、手持ち無沙汰になっていた。検死で、遺体を警察に持って行かれた場合、どのくらいの日数、遺体は返ってこないのだろう、とPCを開いた。
検死と云う表現は一般的で、検視、検屍と書くのが本当らしい。そこからは法律用語の説明になるのだが、犯罪に関係なさそうな行政検視は、一般に刑事調査官あるいは検視官と呼ばれる特殊な訓練を受けた司法警察員が検視をしているのらしい。
ただ、その死亡の状況がなんらかの犯罪に関わっている疑いがある場合は、司法解剖に回されることもあるようだ。圭たちは、おそらく検視、検案、行政解剖、司法解剖など、その取扱いは行政区によって違いがあり、今ひとつ検索しても、納得のいく説明が得られなかった。
結局、ネット上での情報もまちまちと云う事は、その管轄警察の都道府県の考え方で、扱いが相当違うと云うことのようだ。美絵さんの場合、どういう理由で、単なる自殺として片づけられなかったのか、私は疑問を持った。
ここまで考えて、初めて美絵さんが、どのような形で自殺したのか、私は聞いていないことに気づいた。何という不注意かとも思ったが、逆に、あの時点で、どうやって自殺したのか聞ける雰囲気はなかったし、聞いたからといって、気まずさが増すだけで、聞かない方が良かったのだとも気づいた。
つづく
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