第66章圭と有紀からメールが入っていた。圭からのメールは今日のアクシデントのお礼のようなもので、特にレスポンスしなければならないものではなかった。
それに、その留守番のお陰で、奇妙な荷物を持たされたのだから、文句のひとつも言いたいところだが、それを言ったら、すべてがお終いになりそうだった。
有紀から、こんなに早々に返信があると思わなかったから、幾分浮き足立ってメールを開いた。
『ご無沙汰、忙しくてヘトヘトです。気が張っているので、何も症状は出ていないけど、どこかに病気が隠れているに違いない、そんな気分。珍しいですね、涼ねえさんが会いたいなんて言ってくるの。いつも私の勝手だけ聞いてもらっているので、直ぐにでも時間取りたいけど、外で会う程の時間はないの。それで、もし、泊まっても良いのなら、今週の木曜日は都内の仕事が連続するので、姉さんのマンションに行けるんだけど、どうですか?』
有紀のメールは二通届いていた。
『PS,行けるのは、23時くらいになり、翌朝7時にはそのあたりから、出なければいけないので、夜食的ごはん、何か用意して貰えると助かります。3時間くらいは話せると思う。時々、居眠りするかもしれないけどね(笑)』
有紀らしいメールだと思ったが、充分に誠意の伝わるメールだった。
『了解、今週の木曜日の夜、待っています、ありがとう。アンタの好きな小籠包とワインを用意しておくから。朝は食べるなら、梅干しとえびすめのお粥作ってあげるよ。住所は新宿区横寺町*丁目*番**-703だから、タクシーにでも乗って来てね。わからないようなら、電話して。私は最悪でも夜9時には帰宅しているから』私は早速返信した。
自問自答の結論として、圭の肉体とペニスが大切なのだと理解した。無論、多少の迷いはあるが、彼の気持ちがどのようなものであったとしても、私の肉体に対して、圭が、その肉体とペニスで忠誠を誓っている限り、特に「鬼塚啓二と鬼塚みやこ」が、圭という同一人物であるかどうか、どうでもいいことだと思うことにした。
圭と私の関係に、何らかの齟齬が生まれた時、その疑惑が重大になることはあるのかもしれない。
しかし、永遠に齟齬が生まれなければ、その疑惑は永遠に謎のまま封印される問題だった。
何といっても、圭と私は、男と女である前に、姉と弟なのだから、根本的な部分で齟齬の生まれようはなかった。
仮に二人の間に齟齬が生じるケースは、遺産の相続問題の時くらいだろう。
しかし、圭が遺産に強く拘ることはないだろうし、私も遺産をあてにするような生活感はないので、揉める可能性はゼロに近いのだから、圭との関係で齟齬は生じないだろう。
私が性的に男を必要としなくなった時には、圭は昔通りの弟にだけなれば良いのだから。
そんな風に考えが纏まってきた私は、この件を有紀に話すべきかどうか、そちらの方に心配が及んだ。
有紀が多忙なおかげで、漸く三人の関係が終わったと云うのに、有紀が圭を思い出すきっかけを提供するだけになるかもしれないのだ。
有紀を交えた関係が、決して悪いものではなかったのだから、有紀が戻って来ても良いのだけど、私のどこかで、あのような関係は歪み過ぎていると、身勝手な解釈もしていた。
弟と関係を持ち、その情交に深く埋没して快感を貪っている女が、今さら言うべき理屈ではないが、単なる近親相姦の何倍も非倫理的に思えるのが、人には言えない感情である事も承知していた。
しかし、近親相姦の上の三角関係が重なることは、人間関係の齟齬の発生率は格段に上がる理屈も成り立つと思った。
しかし、“圭のことで”ってメールに書いたのを思い出して、小細工はやめて、有紀と話しながら、最終的なまとめをすれば良いと腹を決めた。
無駄なことで思い煩うなんて、やはり、圭のことになると、どこかいつもの自分ではなくなる事実に、何してんのよ!と自分を叱りつけたい気分になった。
しかし、次の瞬間には、いいんじゃなの人間なんだから、と開き直る自分がいた。
そんなことを考えながら、数日はあっという間に過ぎ木曜日の夕方になっていた。
つづく
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