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第146章
一週間が過ぎたが、新聞にも、週刊誌にも、覚醒剤絡みのスキャンダラスな記事は出なかった。
上野や兄に確認したい気持ちを抑えた。
聞くと云うことは、何かを問われる可能性があるわけで、無関係と決めた以上、こちらから動くべき問題ではないのだ。しかし、あれだけの情報が没になるとも思えなので、胸騒ぎがした。
そんな胸騒ぎを感じてから、また一週間が過ぎた。敦美との関係も、寿美との関係も、特に問題なく営まれていた。
特に、寿美家族には幸運が舞い込んだようで、急に家族の金回りが良くなったということだった。寿美は久々に家族から解放された勢いだろうか、一段と性欲の強い女に変貌していた。
先ほど、三度目の交合の末に昇天した寿美は、うつぶせのままの裸身を晒していたが、時折、思い出したように快感の痙攣を起こして、小さく声を上げて、再び気を失った。
俺は、そんな寿美の乱れた姿を見ながら、これ以上の快感が寿美に訪れた場合、死ぬ心配はないのだろうかと、ふと不安になったが、まだ三十代半ばの女がセックスで死ぬわけはないと、自分の不安を打ち消した。
寿美の家族は、そもそも覚醒剤を朝鮮ルートで入手する役割だったのだろうが、さばく側の片山ノートを入手したことで、入りと出の利益総取りした状態を謳歌していた。
しかし、その状態が永遠に続くことはないだろう。
どこかの時点で、そのルートが公になった時点で、彼らにも警察の手が入るのは明らかだった。
ただ、その俺の心配を、寿美に向かって話せる立場でないわけだから、ひたすら、彼らの長い幸運を祈るしかなかった。
寿美の尻の部分に浴衣を掛けて、テレビのリモコンを押した。NHKの天気予報が始まっていた。大型の台風3号が発生し、沖縄から九州方面に影響が出そうだと解説していた。
明日の天気では不確実な天気予報が多いが、台風情報だけはよく当たった。
おそらく、誰が何処から見ても台風だと判る明瞭な雲が衛星でキャッチ出来る為なのだろうが、明日の天気の精度を上げて貰う方が助かるのだが、どうも難しいようだった。
続いて、17時のニュースがはじまった。
今回のA内閣の改造人事は党人事にも及ぶものと思われると云う報道の後、トランプ大統領のロシアゲート報道が続いた。
三番目のニュースは“週刊S”の記者が事件か事故により、お台場付近の海岸で水死体で発見されたと云う報道だった。
俺は慌ててボリュームを上げた。
アナウンサーの口が、何度となく「上野さん」という名前を連呼しているようだった。
上野君が死んだ……。
死んだ。いや、殺されたと云うべきだろう。俺には、事故で、あの上野が死ぬわけがない確信があった。
どうなっているのだ……。
俺は、冷静になろうと努めた。しかし、手足が意味もなく震えた。寿美がオーガズムを迎える寸前のように、息を止めて、現実を受けとめようとした。
思わず、上野の携帯を鳴らしてみた。
咄嗟の判断だが、もし、本当に上野が死んだのであれば、電話が取られることはないと思い込んだのが間違いだった。
“はい、上野の携帯ですが、どちら様ですか”
慇懃だが、こちらを訝ったような低音の男の声が戻ってきた。
つづく