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◎×がプリントされていない あぶない女144


第144章

ジャズバー静は、何時ものように、ゆったりとした時間が流れていた。

上野との約束の時間は午後三時だったが、店内の古時計の針は、午後二時を、すこし回った時を刻んでいた。

約束の時間を間違えた訳ではなかった。地方の新聞社から依頼されたコラムに関する資料に目を通しておきたかったからだった。

この店のオーナーだと云う“静”という名の女の姿を見たのは、10年近く通っていて、たったの一度切りだった。

まぁジャズを聞くために通っているのだから、特にオーナーの婆さんと会う必要はないのだが、どことなく釈然としなかった。

こんな客の入りで、この店の経営は成り立つのだろうか。珈琲が1000円と云うのは高いのだろうが、時間制限なく、良質のジャズ、良質の音響を提供しているのだから、決して高いとは言えなかった。

俺自身は、夜の時間に、この店に来たことはなかったが、上野の話では、夜も同一料金で、昼間と変わらない人の入り具合だと言っていた。上野曰く、多分道楽なんじゃないですか、という評価だった。

上野の評価は、当たらずと雖も遠からずだと、俺も同意していた。渡された資料に目を通しながら、思い出したように、上野に渡すリストにもう一度目を通した。

片山が付けたであろう◎×のマークがプリントされていないことを確かめ、再び、資料に目を移した。

“静”のドアの鈴が鳴り、客の来店を知らせた。足音は迷うことなく、俺の席に近づいてくるのが判った。

俺が目を向けるのと、上野の声が聞こえるのが同時だった。

「おや、早かったね」俺は、開いたままの資料を閉じようとした。

「すみません、早すぎましたか」上野が腕時計に目をやった。

「いや、チョッと資料に目を通そうと思ってね……」

「お待ちしますよ」

「いや、用件を片づけてしまおう。君は、社に戻らなければならないだろうしね……」

「すみません、幾つか案件抱えているものですから……」

「なかなか、週刊誌の仕事も大変な時期だからね、幾つもやらされるのも、時代の流れかな」

「そうですね、昔は、ひとり一件体制が、二件になり、今では三件のかけ持ちが常態化ですよ」

「身体、壊さないようにしないとね。やれるからと言って、やり続けないことだよ。適当にサボらないと身体を壊すから」

「その適当が、なかなか難しいですね。先輩たちの多くが早死にしているのを見聞きすると、何だかなって思いますよ」

「そう、会得した頃には、既に身体を蝕まれってことが多いのが、この業界の常識だよ」

「商売変えしたいところですが、もう三十超えると、そう簡単には行きませんから……」

「まぁ、言うは易くって話だね。ところで、これが例の片山ノートのリストだよ」

俺は、片山の前に、プリントアウトしたリストの束を差し出した。

つづく






プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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